趣味採用とは
「先生、うちの求人、仕事内容も待遇もきちんと書いているんですが、なぜか”うちで働きたい”と思ってもらえてる感じがしないんですよね……」
先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。求人票を見せてもらうと、業務内容・資格・給与はきっちり書かれています。でも、その会社「らしさ」が伝わってくる要素が、どこにもありませんでした。
そこで提案したのが「趣味採用」という考え方です。趣味採用とは、スキルや経験だけでなく、趣味や興味を採用の判断材料のひとつに加える手法です。スキルシートでは測れない「人となり」を知る手がかりとして趣味に注目することで、チームの結束力を高め、社員の満足度と定着率を向上させる効果が期待できます。
ここでポイントになるのが、趣味の”ニッチさ”です。「音楽が好き」「旅行が好き」のように多くの人に当てはまる趣味よりも、「全国一の宮参拝」「特定の車種のいじり方」のように当てはまる人が少ない趣味のほうが、親近感を生む効果は大きくなります。共通点が珍しいほど「まさか同じ趣味の人に会えるとは」という驚きが生まれ、一気に距離が縮まるからです。求人原稿や面接であえてニッチな趣味を開示するのは、この”親近感のスイッチ”を意図的に押しにいく工夫でもあります。
→ 親近感を生む効果は小さめ
→ 「まさか同じ趣味」の驚き
→ 一気に距離が縮まる
求人原稿や面接であえてニッチな趣味を開示するのは、「親近感のスイッチ」を意図的に押す工夫です。
なぜ2026年、趣味採用がこれまで以上に重要なのか
有効求人倍率が高止まりし、人手不足倒産が過去最多水準で推移する今、多くの中小企業にとって「スキル・経験だけで選べるほど応募が来ない」というのが実情ではないでしょうか。
マイナビの2026年調査では、社員の46.7%が「静かな退職」の状態にあると回答し、20代に限ると50.5%にのぼります。入社の時点で会社と自分の”合う・合わない”を見極められていないと、この数字はさらに悪化しかねません。
また、Z世代を中心に、応募前にSNSや口コミで「その会社の雰囲気」を事前チェックする行動が一般化しています。スキルシートだけでは伝わらない「どんな人たちが、どんな空気感で働いているか」を見せることが、これまで以上に採用の成否を分ける時代になっています。趣味採用は、まさにその”空気感”を求人原稿と面接の両方で伝えるための、具体的な手段のひとつです。
入社の時点で「合う・合わない」を
見極められていないと、この数字は
さらに悪化しかねません。
求人原稿の工夫——2つの書き方
趣味採用の入り口は、採用の初段階である求人原稿です。仕事の内容や必要な資格だけでなく、会社にある部活動やイベントについても具体的に書いてみましょう。
このとき、書き方には大きく2つの方向性があります。どちらが正解というわけではなく、会社の規模や狙いによって選び方が変わります。
①ひとつの趣味に振り切る(少人数の会社向き)
従業員10人未満のような少数精鋭の会社では、ひとつの趣味に思いきり絞って打ち出す書き方が効果的なケースが多くあります。例えば、こんな書き方です。
「うちは全員、休みの日はチームで神社めぐり(全国一の宮参拝)に行くくらい神社が好きな会社です。神社好きな方、大歓迎!」
ニッチな趣味に強く共感する人だけがピンポイントで応募してくるので、入社後の一体感が生まれやすく、「同好の士」の空気が定着率の高さにつながります。応募の母数は絞られますが、その分ミスマッチが少なく、少人数の会社にはむしろこちらのほうが向いていることも多いのです。
②複数の活動を並べる(人数が多い・職種が多様な会社向き)
一方、ある程度の人数がいたり、職種が多様な会社では、ひとつの趣味に絞りすぎると母集団が狭くなりすぎたり、「その趣味じゃないと浮きそう」という空気が生まれるリスクがあります。こういう会社では、複数の活動を並べて紹介するほうが、幅広い候補者に届きやすくなります。
○ 共感する人だけが応募する
○ 入社後の一体感が育ちやすい
△ 応募の母数は絞られる
○ 幅広い候補者に届きやすい
○ 「浮きそう」な空気を防ぐ
どちらが正解というわけではなく、
会社の規模や狙いで
選び方が変わります。
- 神社めぐり部があります。週末に、全国一の宮参拝を巡っています。
- 海釣り部があります。四半期に一度、海釣りに出かけています。
- カラオケ部があります。部員募集中!
- ワイン同好会があります。
実際に、この「趣味軸」の求人原稿で成果が出た例もあります。採用が難しいと言われる電気工事の求人で、クリック率21.23%・応募率9.68%(一般的な目安のおよそ14〜68倍)を記録し、掲載からわずか4日で20代の方の採用が決まりました。詳しくは「求人を出しても応募が来ない?電気工事でクリック率21.23%・4日で内定が出た話」で紹介していますので、あわせてご覧ください。
求人原稿で候補者の心をつかむための考え方は、「応募が来ない求人原稿には、理由がある」でも詳しく解説しています。
面接での聞き方——踏み込みすぎない工夫
求人原稿で興味を持ってもらえたら、次は面接です。趣味や興味に関する質問をひとつ加えるだけで、候補者の緊張がほぐれ、その人らしさが見えやすくなります。
例えば、「休日はどんな風に過ごしていますか?」「最近ハマっていることはありますか?」「趣味を通じて学んだことで、職場に持ち込めるスキルはありますか?」といった聞き方が有効です。
一方で、気をつけたいのは踏み込みすぎないことです。「その趣味はあなたの人生観にどう影響していますか?」のように、価値観や生き方そのものを深掘りする聞き方は避けましょう。思想・信条に関わる事項は採用選考で扱わないのが原則で、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」でも、適性・能力に関係のない事項を尋ねないことが求められています。
あくまで「人柄」や「チームとの相性」を無理なく知るための会話——その距離感を守ることが、候補者にとっても会社にとっても心地よい面接につながります。
活かせる力を聞く
影響したかを聞く
思想・信条に関わる事項は採用選考で扱わないのが原則です(厚生労働省「公正な採用選考の基本」)。
私が経営相談の現場で感じること
実際に趣味採用の考え方を求人原稿に取り入れたある運送会社では、「社長が大のバイク好きで、ツーリング部があります」という一文を加えただけで、これまで反応のなかった層から応募が来るようになりました。面接で趣味の話から入ることで候補者の緊張がほぐれ、本音の受け答えを引き出しやすくなったという声もいただいています。
一方で、こんなケースもありました。ある会社の面接官が、経験も申し分ない候補者に対して「趣味が自分たちと合わない」という理由だけで評価を下げてしまい、危うく優秀な人材を逃しかけたのです。
趣味は、選考の点数に加点・減点として組み込むものではありません。あくまで候補者の人となりを知り、入社後の相性をイメージするための参考情報として扱い、スキルや能力の評価とは別の軸に置く——これは、実際に相談を受ける中で私が繰り返しお伝えしていることです。
入社後が本番——趣味コミュニティの育て方
趣味採用は、採用して終わりではありません。むしろ入社後が本番です。
社内に趣味を共有するコミュニティやグループをつくり、会社が積極的にサポートすることで、社員同士のつながりは深まっていきます。ゲーム好きが集まるクラブやツーリングサークルの設立、社員が自分の趣味を紹介する月イチのイベントなど、やり方はいろいろあります。仕事以外の顔を知り合える場があるだけで、職場の空気は変わり、定着率の向上にもつながります。
実際に、趣味採用系の求人で採用が決まった会社では、こんなことも起きています。気の合う職場の仲間4人組が「一緒に〇〇へ旅行に行こう!」と、休みの日に自主的に旅行を計画したのです。会社が高いお金をかけて社員旅行を企画しなくても、共通の趣味でつながった仲間同士が自然と親睦を深めてくれる——これは趣味採用ならではの、うれしい副産物と言えるでしょう。
まとめ——「趣味なんかで、採用がうまくいくのかね?」
そんな声が聞こえてきそうです。実利を重んじる経営者の方ほど、趣味を重視する採用が成果に結びつくとは、すぐには思えないかもしれません。
でも、思い出してみてください。冒頭の社長の悩みは「求人はきちんと書いているのに、”うちで働きたい”と思ってもらえない」でした。スキルや条件の情報だけでは、会社の魅力は伝わらない——だからこそ、趣味という切り口で「どんな人たちが、どんな空気感で働いているか」を見せるのです。
趣味採用は、仕事への情熱や創造性を引き出し、企業文化を豊かにし、社員の満足度と定着率を高めることで、中小企業の競争力強化に寄与します。定着する人材を採用できなくてお困りの企業であれば、一度、試してみる価値はありますね。
今日からできる3つの一歩
- 次回の求人原稿に、会社の「趣味・文化」が伝わる一文を1つ加えてみる
- 面接の質問リストに「趣味や興味」に関する質問を1つ追加してみる
- 趣味は選考の点数に加点・減点として組み込まない——あくまで人となりを知るための参考情報として扱う
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