若手が“仲間”を語らなくなった?——AI時代の若手社員育成、35,000人調査が示す変化

「聞かない若手」の育て方――35,000人調査に見る若手育成(採用と育成ブログ)

9月24日、若手社員の育成に関わる人にとって気になる調査が発表されました。この調査は、若手社員が研修を終えたあとに書いた35,000人分の感想を、5年分並べて分析したものです。そこから見えてきたのは、若手が「変わった」というより、「何を語るか」が変わってきている、という事実でした。

社長「先生、最近の若手は、分からないことがあっても聞きに来ないんですよ。黙ってパソコンに向かって、しばらくすると『できました』って持ってくる。それがまた、そこそこ形になってるんです」

鎌倉「黙々と調べて仕上げてくるのは、頼もしい面もありますよね。聞きに来てもらえないことが寂しいのか、仕上がりの中身が気になるのか、社長はどちらでしょうか」

社長「……両方ですね。答えは合っていても、『なんでそうしたの?』と聞くと、返ってこないんですよ」

目次

35,000人の「本人の言葉」を5年分並べた調査が出ました

株式会社リンクアンドモチベーション(モチベーションエンジニアリング研究所)が2026年9月24日に発表した「若手社員研修アンケートからみる若手社員の傾向に関する調査結果」は、2022年度〜2026年度に同社グループの若手社員研修(最大3日間)に参加し、アンケートに回答した35,000名が対象です。

「今回の研修はいかがでしたか? その理由を記入してください」という設問への自由記述を、「自己認識」「仲間・同期・チーム」「実践・行動」など12のカテゴリーに分類し、入社年ごとに5つのグループで比べています。「最近の若手は」という声はよく聞く一方で、若手本人の回答にもとづく時代変化のデータは十分ではなかった、というのが調査の出発点です。

この調査のしくみ
対象同社の若手社員研修(最大3日間)の回答者35,000名(2022〜2026年度)
内容「研修はいかがでしたか? 理由を記入してください」への自由記述
分類コメントを12カテゴリーに分類(自己認識・仲間・実践など)
集計入社年ごとに5つのグループに分け、各グループの合計を100%として構成比を集計
発表2026年9月24日発表(株式会社リンクアンドモチベーション)

増えた言葉は4つ、減った言葉は2つ——5年間の変化

2022年から2026年にかけて、次の4項目がいずれも3ポイント以上増え、2026年に5年間で最高となりました。

  • 「相手基準・顧客視点」 3.5% → 8.3%
  • 「実践・行動・ロープレ」 6.7% → 11.0%
  • 「報連相・発信・対話」 3.9% → 7.3%
  • 「目的意識・優先順位・俯瞰」 5.3% → 8.5%

反対に、「仲間・同期・チーム」は12.8%から8.8%へ、「FB(フィードバック)・他者評価との対峙」は9.6%から7.1%へと、どちらも2.5ポイント以上減っています。

増えた4つの言葉(2022年→2026年)
相手基準・顧客視点
3.5% → 8.3%▲ 4.8pt
実践・行動・ロープレ
6.7% → 11.0%▲ 4.3pt
報連相・発信・対話
3.9% → 7.3%▲ 3.4pt
目的意識・優先順位・俯瞰
5.3% → 8.5%▲ 3.2pt
減った2つの言葉(2022年→2026年)
仲間・同期・チーム
12.8% → 8.8%▼ 4.0pt
FB・他者評価との対峙
9.6% → 7.1%▼ 2.5pt

出典:株式会社リンクアンドモチベーション「若手社員研修アンケートからみる若手社員の傾向に関する調査結果」(2026年9月24日発表)。数字は、研修後アンケートのコメントを12カテゴリーに分類し、入社年ごとに合計100%として集計した構成比です。

「目的・相手・実践」を語る力は、むしろ確実に育っている

まず押さえておきたいのは、増えた4項目が、経営者にとって歓迎すべき変化だという点です。研修で学んだことを「目的から逆算して考える」「相手の立場で伝える」「まずやってみる」という言葉で振り返る若手が、年々増えています。

冒頭の社長のお悩みに戻ると、黙って調べて形にしてくる若手は、「実践して試そう」という姿勢が強いとも言えます。これは間違いなく強みです。ここを「聞きに来ない、生意気だ」と受け取ってしまうと、せっかく育っている力を見逃してしまいます。

それでも気になる、減った「仲間」と「他者の評価」の言葉

一方で、減った2項目は、どちらも「他者との関わりの中で自分を捉え直す」という領域の言葉です。調査を行った同社も、「スタンス(目的・相手・実践)の理解は深まっている一方で、それを支える他者との協働に触れる言葉は相対的に薄まっている」と整理しています。

たとえば「グループのメンバーから自分の良いところと改善点を教えてもらって、新しい気づきがあった」といった趣旨のコメントが、「仲間・同期・チーム」の代表的な声として資料で紹介されています。こうした「人からの一言で自分が見えた」という体験の言及が、少しずつ減っているのです。

ちなみに、2026年は「仲間・同期・チーム」が前年(8.1%)からわずかに戻して8.8%になっています。一直線に減り続けているわけではなく、「2022年に比べると低め」という程度の変化であることも、あわせて押さえておきましょう。

「AIのせい」と決めつける前に——この調査が言えること、言えないこと

この調査の考察では、背景の可能性として「生成AIの浸透で、他者に問う前にAIとの対話で完結する」ことが挙げられています。ただし同社は、研修内で生成AIを使っていないため、AIの影響だという明確な因果関係は言えない、とはっきり断っています。

実際、最も「仲間・同期・チーム」を語ったのは、オンライン入社が主流で同期との対面の接点が少なかった2022年入社のグループです。会えなかったからこそ、研修で仲間と関われたことが強く印象に残った、とも読めます。「AIが原因で若手が孤立している」と言い切るには、材料が足りません。

また、この調査は同社の研修に参加した若手の、研修後コメントの構成比です。業種や会社の規模、AIの使われ方によって状況は大きく違い、すべての若手・すべての会社に同じ傾向がそのまま当てはまるとは限りません。だからこそ、断定せずに「こういう変化が起きているかもしれない」という視点で自社の若手を見てみる、という使い方が誠実だと考えます。

学びは「頭の中」ではなく「人の輪の中」で起きる——正統的周辺参加

では、もし「他者と関わる学び」が薄まっているとしたら、何が困るのでしょうか。ここで役に立つのが、ジーン・レイヴとエティエンヌ・ウェンガーが1991年に示した正統的周辺参加という考え方です。

仕立て職人や助産師の見習い制度などを調べた彼らは、学びとは「知識を頭に蓄えること」ではなく、仕事の共同体に参加し、役割を少しずつ広げていく過程だと考えました。見習いは最初、雑用のような周辺の仕事から始めます。けれど、それは単なる下働きではありません。先輩の仕事を間近で見て、その場の空気や判断の理由に触れ続けることこそが、大切な学びの入口になっているのです。

職場に置き換えるなら、先輩の電話対応を隣で聞く、会議で先輩が迷いながら判断する様子を見る、ふとした雑談で失敗談を聞く。こうした「周辺」での体験が、誰かが教えようとしたわけではないのに、「この会社ではこう考えるんだ」という感覚を渡していきます。

ルートA:AIに聞く
○ すぐ答えが返ってくる
○ 手順や言い回しを補える
△ 会社の判断基準は返らない
ルートB:人の隣で学ぶ
○ 先輩の判断を見て学べる
○ 失敗談や空気に触れる
△ 意図して場を作る必要
A(速さ)× B(文脈)を組み合わせるのが、これからの若手育成

AIは「答え」を速く渡してくれる。でも「この会社の答え」は、隣の人が持っている

念のためですが、AIを使うなと言いたいわけではありません。カスタマーサポート担当者5,179人を分析した、スタンフォード大学・MITの研究者らの論文(2023年にNBERのワーキングペーパーとして公表、のち2025年に経済学の学術誌に掲載)では、生成AIの導入で1時間あたりの問題解決件数が平均14%増え、経験の浅い担当者では34%も伸びたと報告されています。熟達者のやり方を新人に伝える助けにもなる、という分析です。

AIは、間違いなく若手の力になります。ただ、AIが得意なのは、誰にでも通用する答えを速く出すことです。「うちのお客様は、この一言を嫌がる」「この取引先には、まず電話で謝る」といった、その会社ならではの判断の基準は、人の隣にいないと手に入りにくいものです。冒頭の「答えは合っているのに、なぜそうしたかが返ってこない」という社長のもどかしさは、ここにあるのかもしれません。

考え方の整理(仮説)
① AIに聞いて完結する場面が増える
調査の考察が挙げた「可能性」。ただし因果関係は確認されていません
▼
② 先輩の隣で見聞きする機会が減るかもしれない
電話・会議・雑談など、「周辺」で触れる体験が少なくなる
▼
③ 「この会社の判断基準」が伝わりにくくなる
答えは合っていても、「なぜ」を語る言葉が育ちにくい

※調査の考察と正統的周辺参加の考え方をつないだ整理であり、事実として確認された因果の図ではありません。

中小企業の「距離の近さ」は、この時代の大きな強みになる

では、どうすればいいのでしょうか。ここで、中小企業にとっての追い風を1つだけお伝えします。それは、先輩と若手の距離がもともと近いことです。

大企業では、若手が先輩の仕事を「周辺」から見られる機会を制度として設計しなければなりません。中小企業なら、社長も先輩も同じフロアにいて、商談も電話も見える距離にいます。特別な研修を新しく作らなくても、すでにある「隣にいる」状態を、意識して活用するだけで、協働の機会は増やせます。調査会社も、配属後に仲間や上司・先輩と自然に協働できる環境を設計し、上司側の関わり方も見直すことが次の課題だと述べています。

今日からできる、協働を取り戻す3つの工夫

難しい制度は要りません。次の3つは、来週からでも試せます。

協働を取り戻す3つの工夫
1
AIで調べたことを「持ち寄る」5分をつくる
若手が調べた内容を、先輩がちょっと見せてもらう。「どこがいちばん参考になった?」から始める
2
先輩の仕事の「隣」に座る機会を、あらかじめ置く
商談・電話・会議への同席を、週に1回だけでも予定に入れる。終わったら「今の場面、どう見えた?」と一言
3
フィードバックは、その日のうちに短く
長い面談より、「事実→影響→次の一手」を1〜2分で。他者の評価に触れる回数そのものを減らさない

1つ目の「持ち寄り」では、AIの答えを添削するのが目的ではありません。「どこが参考になった?」と入口を広げておくと、若手は「AIで調べたことを見せても大丈夫なんだ」と感じます。そこから「じゃあ、うちの場合はこうなんだよ」と会社の文脈を足していくことが、ルートAとルートBをつなぐ橋渡しになります。

3つ目のフィードバックについては、褒め方・叱り方のコツで紹介した「事実→影響→次の一手」の型が、そのまま使えます。また、世代のせいにしすぎず「期待のすり合わせ」から始める考え方は、「今どきの若手は違う」は本当かでもお伝えしています。

まとめ

  • リンクアンドモチベーションの調査(35,000人・2022〜2026年)では、若手は「目的・相手・実践」を語る力が伸びている一方、「仲間・同期・チーム」(12.8%→8.8%)と「FB・他者評価との対峙」(9.6%→7.1%)の言葉が減っていた
  • AIとの因果関係は調査自身も断定していない。学びが「人の輪の中」で起きるという正統的周辺参加の視点から、AIの速さと人の隣で得る文脈の両方を組み合わせることが、これからの育成の鍵になる
  • 中小企業は先輩との距離が近い。AIで調べたことを持ち寄る5分、先輩の隣に座る機会、その日のうちの短いフィードバックの3つで、協働の場を取り戻せる

若手と上司の関わり方の設計や、育成の仕組みづくりでお悩みの際は、経営の伴走顧問でご一緒に整理することもできます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次