退職代行モームリ逮捕後、突然連絡が来たら——「辞めたい」を直接言ってもらえる会社へ

退職代行モームリ逮捕後の定着術 「辞めたい」が言えない職場

「先生、昨日の夜、急に知らない業者から連絡が来まして。『Aさんは明日から出社しません。今後の連絡は当社を通してください』と……。Aさん、先週も普通に働いていたんです」

そんな相談を受けることが、これから中小企業でもきっと増えていきます。今回のテーマは、いわゆる退職代行です。2026年2月に「退職代行モームリ」の運営会社の代表が逮捕されたことで、この業界にあらためて注目が集まりました。業者から連絡が来たとき、会社はどう対応すればよいのかも合わせて整理します。「辞めたい」と言ってくれれば話し合えたのに、という悔しさをどう受け止めるか。今日は、責める話ではなく、どうすれば「辞めたい」を直接言ってもらえる会社になれるかという視点でお話しします。

目次

退職代行を経験した企業は、いまや約11社に1社

東京商工リサーチが2026年4月15日に発表した調査(2026年3月31日〜4月7日実施、6,425社が回答)によると、退職代行を通じた従業員の退職を経験した企業は全体で8.7%でした。前回調査(2025年6月)から1.5ポイントの増加です。

規模別に見ると、大企業が21.3%、中小企業が7.8%。数字だけ見れば中小企業のほうが低いのですが、これは「まだ身近ではない」というだけで、増えている流れの中にいることに変わりはありません。

図解① 退職代行を経験した企業の割合
東京商工リサーチ調査(2026年3月31日〜4月7日実施・6,425社)
大企業(資本金1億円以上)
21.3%
全企業
8.7%
中小企業(資本金1億円未満)
7.8%
全企業の割合は前回(2025年6月)から1.5ポイント増加

もちろん、業種や地域、社員の年代構成によって状況は大きく違います。「うちには関係ない」と言い切れる会社もあれば、すでに何度も経験している会社もあるはずです。

使うのは若い世代が中心。ただ「わがまま」と片づけるのは早い

同じ調査の前回版(2025年6月・6,653社)では、退職代行を使った人の年代は20代が60.8%と最多でした。30代が26.9%、40代が11.0%と続きます。

ここで「今どきの若者は根性がない」と結論づけたくなる気持ちも分かります。ですが、辞める側の事情はさまざまです。ハラスメントなど、本人が身を守るために選ぶ場合もあります。「直接言えない事情があったのかもしれない」ところまで想像しないと、対策を誤ってしまいます。

ここで役に立つのが、経済学者ハーシュマンの整理です。

人は不満を感じると「発言」か「離脱」を選ぶ

ハーシュマンは、組織や商品に不満を持った人が取る行動を大きく2つに分けました。ひとつは、改善を訴える「発言(Voice)」。もうひとつは、黙って去る「離脱(Exit)」です。

ポイントは、発言の道が閉ざされている、あるいは言っても無駄だと感じられるとき、人は離脱を選びやすくなるという点です。退職代行は、その離脱の中でも「顔を合わせて伝える」ことすら避ける形だと言えます。

図解② 不満を感じた社員の選択肢(ハーシュマンの整理)
声を上げる(発言)が通る職場
○「ちょっと相談したい」が日常的に言える
○言ったことが受け止められ、何かしら変わる
○辞める前に、話し合いの時間が持てる
声を上げても届かない職場
×言っても変わらない、言いにくいと感じている
×不満が積もるまで、経営者には見えない
×残る道が「去る(離脱)」だけになり、顔を合わせず去る手段が選ばれる

「社長、実はちょっと……」と一言言えていれば、防げたかもしれない退職。それが言えなかったのは、本人の性格というより、言いにくい・言っても変わらないと感じさせる職場の空気だったのかもしれません。もちろん、すべてのケースに当てはまるわけではありません。

「先生、うちは風通しがいいはずなんです。社員とはよく話していますし」

そう感じるのは自然なことです。ただ、社長が話しやすいと感じることと、社員が話しやすいと感じることは、必ずしも同じではありません。立場が違えば、同じ会話でも重さが違うからです。

退職代行モームリの逮捕が示した、業界の法的な不安定さ

退職代行という業界は、法的な立ち位置が安定していません。2026年2月には、退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスの代表が、弁護士法違反の疑いで逮捕されました。報道によると、報酬を得る目的で、利用者を弁護士に紹介した疑いです。

東京商工リサーチは、弁護士資格がない業者にできるのは退職の意思を伝えることが中心で、有給休暇や退職日などの交渉は弁護士法72条に抵触する恐れがある、グレーな領域で成り立ってきたと整理しています。ただ、この事件で退職代行という需要そのものがなくなるわけではありません。連絡してきた業者がどんな立場で何をしようとしているのかを、会社側が冷静に見きわめる必要性は、いっそう高まっています。

連絡が来てしまったら——まず「手順」で対応する

では、実際に業者から連絡が来たらどうすればよいのでしょうか。TSRの調査では、連絡を受けた企業の対応は、「業者を間に挟んで手続きを進める」が41.3%、「取り合わない」が30.4%、「連絡内容に従う」が28.2%と分かれています。会社ごとに判断が割れているのが実情です。

大前提として、退職の意思表示そのものは、本人の権利です。感情的に「そんな辞め方は認めない」と反応したり、連絡を無視して問題を大きくしたりするのは避けたいところです。

  • まず、本人から本当に依頼された連絡なのか、事実を確認する
  • 業者が有給休暇の取り扱いや退職日などを交渉してくる場合は、対応の可否を専門家に相談する(この点は法的な判断が必要です)
  • 貸与物の返却、社会保険の手続き、最終給与の精算など、会社として必要な事務は淡々と進める

ここは個別の事情で法的な判断が変わる部分です。「一般的な流れの説明」であり個別の助言ではありませんので、迷ったら早めに社会保険労務士や弁護士に相談してください。

大切なのは「来たあと」より「来る前」——声の通り道をつくる3つの工夫

ただ、本当に力を入れたいのは、連絡が来たあとの対応よりも、その前です。辞める人の多くは、辞める前になんらかのサインを出している、と考えるほうが自然です。そのサインを拾える会社になれば、結果として「顔を見て言ってもらえる」確率が上がります。

図解③ 「声の通り道」をつくる3ステップ
1
日常の小さな声を拾う
月1回、評価と切り離した雑談ベースの1on1。「困っていること」を先に聞く
2
社長以外にも話せる入口を置く
社労士など社外の相談窓口や、社長を通さない相談ルート
3
万一の連絡には、手順で対応する
感情で反応せず、事実確認と専門家への相談を先に。辞める人との関係は切らない

①日常の小さな声を拾う。月1回、評価と切り離した30分の1on1をつくります。「最近困っていること、ありますか」と、進捗より先に聞きます。答えがなくても大丈夫です。「この人には言っても大丈夫」という記憶を少しずつ積むことが、辞めたいと思った時の最初の一言につながります。以前の記事の辞めた社員が友人にだけ語る本音の退職理由は、まさにこの「言えなかった声」の話です。

②社長以外にも話せる入口を置く。社長に直接言いにくいこともあります。社労士などの社外の相談窓口や、社長を通さない相談ルートを一つ用意しておくと、「誰にも言えない」状態を減らせます。入口が1つあるだけで印象は大きく変わります。

③万一の連絡には、感情でなく手順で。そして関係は切らない。それでも辞める人は出ます。そのときも、辞め方に腹を立てるより、「どこで声が届かなくなったのか」を振り返る材料にしてください。

若手が辞めたいと感じる理由の変化は「辞めたい理由」が変わったで、辞めないけれど頑張らない社員の心理は「辞めないのに、頑張らない」で触れています。合わせてお読みください。

中小企業だからこそ、「声の通り道」はつくりやすい

大企業では、経営者と社員の距離が遠く、声の通り道をつくるのに時間も仕組みも必要です。一方で中小企業は、社長と社員の距離が近い分、やろうと思えば今日から声の通り道を整えられます。これが、大企業にはない強みです。

退職代行の増加は、脅威というより「言えない職場のサイン」を教えてくれる鏡だと捉えてみてはいかがでしょうか。

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まとめ

  • 退職代行を経験した企業は全体で8.7%(TSR・2026年4月発表)。大企業は21.3%、中小企業は7.8%で、前回から増加している
  • 不満を感じた人は「発言」か「離脱」を選ぶ。言っても届かないと感じる職場ほど、顔を合わせない離脱が選ばれやすい
  • 対策は「来たあと」より「来る前」。日常の小さな声を拾う・社長以外の入口を置く・万一の連絡には手順で対応する
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