内定取消しが2倍に増えた理由——AIが変える”新卒”という仕事の意味

内定取消しが2倍の理由――AIが変える新卒という仕事の意味

「内定、取り消します」——そんな一言を、もし自分が言う側になったら。想像するだけで胃が痛くなるような場面ですが、実は今、この”まさか”が増えています。厚生労働省の発表によると、来年3月に卒業する新卒者への採用内定取消しが、前年の2倍以上に増えているのです。

「うちは中小企業やし、そんな大それた採用計画は立てませんから、関係ないですよ」——そう思われた経営者の方もいるかもしれません。ですが結論から言うと、この内定取消しの急増は、一社一社の見通しの甘さというより、もっと大きな変化の”初期症状”です。何が起きているのか、順を追って見ていきましょう。

目次

新卒の内定取消し、去年の2倍以上に——厚労省データの中身

厚生労働省が公表した「令和8年3月新卒者の採用内定取消し等の状況」によると、内定取消しを行った事業所は29事業所・80人。前年(令和7年3月新卒)の21事業所・34人と比べると、事業所数で約4割増、人数では2倍以上に増加しています。あわせて、入職時期を繰り下げた事業所も報告されており、採用計画の帳尻が土壇場で崩れるケースが目立った年だったといえそうです。

この数字だけを見ると「業績が思ったより伸びなかったのだろう」で終わってしまいそうですが、一足先にアメリカで起きていることを知ると、見え方が変わってきます。

アメリカでは、すでに”新卒がいらない”が現実になっている

全米大学・雇用者協会(NACE)が企業183社に行った調査では、新卒採用の見通しを「良い」と答えた企業は37%で、前年より10ポイントも低下。採用計画そのものも、前年比でわずか1.6%増にとどまっています。今年6月時点の大卒者の失業率は4.8%と、社会全体の失業率を上回る”逆転現象”が続いています。かつては学歴が高いほど有利だった構図が、崩れ始めているのです。

なぜ、こんなことが起きているのか。スタンフォード大学デジタル経済研究所のエリック・ブリニョルフソン教授らが2025年11月に発表した研究が、その理由を説明しています。ソフトウェア開発者やカスタマーサービス担当など、AIの影響を受けやすい職種で、ChatGPTの登場以降”若手だけ”雇用が減り、同じ職種のベテランは安定・増加しているというのです。理由はシンプルです。プログラムのバグ探しやテスト、定型的な問い合わせ対応、資料作成や議事録づくりといった、新卒・若手が「習うより慣れよ」で覚えてきた定型業務こそが、生成AIが最も得意とする領域だから。研究者たちは、若手労働者を危険をいち早く知らせる「炭鉱のカナリア」にたとえています。

図解:アメリカで先行する”新卒氷河期”
採用意欲の低下
「良い見通し」と答えた企業は37%(前年比-10pt)、採用計画は前年比+1.6%にとどまる(NACE調査・企業183社)
失業率の逆転現象
大卒者の失業率4.8%が、社会全体の失業率を上回る
若手だけが雇用を減らす
AIの影響を受けやすい職種で若手だけ雇用が減少、ベテランは安定・増加(Brynjolfsson et al., 2025)

日本でも、もう他人事ではない

同じ変化は、日本でも足音を立て始めています。日経ビジネスが人事担当者779人に行った調査では、約4割が「AI活用によって新卒採用人数が減る」と見込んでいます。「新卒採用が多い」と答えた企業は現在38.3%ですが、5年後には25.8%まで下がると予測されています。経済産業省の試算では、事務職で最大440万人の余剰が生じる可能性、事務作業の最大55%がAIに代替される可能性があるとされています。

実際に動き出している大企業もあります。ENEOSは事務系やIT企画などの一部職種で27卒の採用を見送り、全体で約2割の採用減。クボタは27卒の採用人数を前年の455人から280人へ、大学・大学院卒に限れば239人から60人へと、約7割も絞り込みました。富士通は新卒一括採用そのものを廃止し、年間の採用人数をあらかじめ決めない仕組みに転換しています。冒頭の内定取消しの増加は、こうした流れの、いわば先端に表れた症状なのです。

図解:日本の大企業も動き始めた
ENEOS
事務系・IT企画など一部職種で27卒採用を見送り。全体で約2割の採用減
クボタ
27卒採用は455人→280人(約4割減)。大学・大学院卒は239人→60人(約7割減)
富士通
新卒一括採用を廃止し、年間採用人数を決めない通年・ジョブ型採用へ転換

※出典:日経ビジネス各社取材記事(2026年)。業界・企業規模によって状況は異なります。

だからといって、内定を安易に取り消していいわけではない

ここまで読むと、「新卒採用の前提がこれだけ変わるなら、計画が崩れて内定取消しになるのも仕方ない」と感じるかもしれません。ですが、そこは分けて考える必要があります。目標を大きく掲げること自体は間違いではありません。中期計画にせよ採用人数にせよ、企業が掲げる数字の多くは精緻な未来予測というより「この数字を実現する」という意志表明であり、大きく掲げてそこから逆算して工夫するのは経営の王道です。心理学の”目標設定理論”(エドウィン・ロック&ゲイリー・レイサム)でも、具体的で挑戦しがいのある目標を持つ人ほど高い成果を出す、という結果が積み重ねられています。

問われているのは、目標の大きさではなく、目標を立てた後にどれだけ工夫を尽くせるか、そしてその工夫が尽きた時に、しわ寄せをどこに向けるかです。「内定はまだ雇用契約ではないから、取り消しも自由にできる」と考えている経営者の方もいますが、これは正確ではありません。判例上、採用内定は「始期付解約権留保付労働契約」——入社日から効力が生じる労働契約がすでに成立している状態と位置づけられており、内定取消しは法的には解雇に近い厳格な規制を受けます。客観的に合理的で社会通念上相当と認められる理由がなければ、内定取消しは無効と判断される可能性があるのです。

だからこそ、事業環境の前提が変わったとわかった時点で、真っ先にやるべきは「取消し」ではなく、工夫を尽くし切ることです。

図解:内定取消しの前に検討したい3つの選択肢
1. 入社時期の調整
本人に事情を丁寧に説明し、合意のうえで入社時期を数ヶ月ずらせないか相談する
2. 配置・労働条件の見直し
当初予定していた部署・業務が難しくなった場合、別の配置で受け入れられないか検討する
3. 社労士・弁護士への早期相談
「取消すしかない」と決めつける前に、専門家に相談し、他の選択肢がないか一緒に検討する

※いずれも、本人への一方的な通告ではなく、誠実な対話を前提とした進め方が大切です。強要にあたるような働きかけは避け、判断に迷う場合は早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

中小企業にとって、この変化は何を意味するのか

「うちも人手が足りないから、なんとか間に合わせたいんですけどね」という社長の焦る気持ちもよく分かります。その気持ち、よく分かります。だからこそ、ここでもう一段深く、大企業が新卒採用を絞っている”理由”そのものに目を向けてみましょう。大企業が採用を見直しているのは、「大量に採って、定型業務をこなしながら少しずつ育てる」という従来型のOJTが、AIの登場で経済合理性を失いつつあるからです。

裏を返せば、中小企業がもともとやってきた育て方——少人数で一人ひとりに実務を任せ、現場で判断力そのものを鍛えるやり方は、AIに代替されにくい「判断・対話・例外対応」の力を若手のうちから鍛える育成モデルでもあります。大企業が新卒採用の”あたりまえ”を見直している今だからこそ、この育て方の価値を、求人票や面接の言葉で具体的に伝える意味が出てきます。求人票の言葉一つで応募の集まり方が変わるという話は「初任給を上げても、応募が来ない」——令和世代に本当に響く求人票の作り方でも書きましたが、”何を任せ、どう育てるか”を語れる採用計画は、AIによって新卒の仕事が減っていく時代にこそ強みになります。

そしてもう一つ、中小企業に規模を問わずできることがあります。内定取消しのニュースが不安材料になっている今、大きな目標を堂々と掲げながら、実現のためにあらゆる工夫を尽くし、内定後も会社の状況を誠実に伝え続け、出した約束は最後まで責任を持って守り抜くこと。派手な採用予算やAIの活用力では大企業に勝てなくても、「約束を守る会社」という信頼は、規模に関係なく積み上げられます。せっかく出した内定を辞退されてしまう心理についても、以前応募は来ているのに”欲しい人”を逃す——内定辞退を防ぐ「選考スピード」の心理学で取り上げたので、あわせて読んでみてください。

「そうか、目標を小さくすることが正解やと思ってたけど、そうやなくて、”何を任せて育てるか”を見直したうえで、掲げた約束をどう実現するか、その工夫の方が大事なんですね」

そうです。大きな目標と、その中身を時代に合わせて見直す柔軟さと、出した約束を守り抜く誠実さ。この3つがそろって、はじめてAI時代の採用戦略になるんですよ。

まとめ

  • 新卒の内定取消しが去年の2倍以上に増えた背景には、AIが新卒・若手の定型業務を代替し始めているという、アメリカで先行する世界的な構造変化がある
  • 目標を大きく掲げること自体は間違いではない。問われているのは、目標を立てた後にどれだけ工夫を尽くせるか
  • 内定取消しは法的にも簡単には認められず、まずは誠実な対話を前提にした代替策(入社時期の調整・配置の見直し・専門家への早期相談)から検討する
  • 大企業が新卒採用の”あたりまえ”を見直す今こそ、中小企業らしい「実務で判断力を鍛える」育成モデルと、約束を守り抜く誠実さを、採用の強みにできる

「AI時代の採用計画を、自分の会社に合わせて相談したい」という方は、採用支援サービスのページもあわせてご覧ください。

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