「先生、秋の求人も出したんですけど、正直、あんまり反応がないんですよね……」
9月に入り、27卒学生の二次募集・秋採用がいよいよ本格化する時期。ある社長からこんな相談を受けました。春夏の採用で予定人数に届かず、秋も求人を出し続けているものの、応募数はぽつぽつ。「うちみたいな中小企業には、やっぱり学生は来ないんでしょうか」と、ため息まじりでした。
秋なのに応募が来ない――経営者が抱きがちな「あきらめ」
春の採用で決着がつかず、秋まで求人を続けている中小企業は少なくありません。ですが、二次募集・秋採用の時期になると「もう、いい人は大手に決まってしまった後だろう」「うちに応募してくる学生なんて、そう多くない」と、最初からあきらめ気味になってしまう経営者の声をよく聞きます。
ですが、この思い込みには根拠がありません。むしろ、データを見ると状況はまったく逆の方向に動いています。
実は、学生の「中小企業志向」は年々高まっている
マイナビキャリアリサーチLabが2026年4月に発表した「2027年卒 大学生就職意識調査」(2025年10月〜2026年3月実施)によると、中堅・中小企業志向の学生は44.0%で、前年から1.0ポイント増加し2年連続の増加。一方で大手企業志向は50.9%と、前年から0.9ポイント減少し、こちらも2年連続の減少となっています。
企業選びで重視する項目でも、「安定している会社」が55.4%(前年比3.5ポイント増)で8年連続の最多、「給料の良い会社」も26.6%(前年比1.4ポイント増)で5年連続の増加という結果が出ています。物価上昇や実質賃金の伸び悩みを背景に、学生の目は知名度より実質に向き始めているようです。
つまり、学生の側の関心は、決して中小企業から遠ざかっているわけではありません。むしろ追い風が吹いています。だとすれば、応募が来ない本当の理由は、別のところにあるはずです。
利用可能性ヒューリスティックとは――「思い出しやすいもの」で判断してしまう心理
ここで手がかりになるのが、行動経済学でいう「利用可能性ヒューリスティック」という考え方です。心理学者トベルスキーとカーネマンが示したこの考え方は、人は物事の重要性や可能性を、記憶の中から「どれだけ簡単に思い出せるか」で判断してしまう、という心理の傾向を指します。頻繁に見聞きするもの・印象に残っているものほど、実際以上に大きく・身近に感じられるのです。
就職活動でいえば、学生が「候補になる会社」を思い浮かべるとき、頭の中に自然と浮かんでくるのは、テレビCMや電車広告、就活サイトのトップに並ぶ大手企業ばかり。中小企業がどれだけ良い条件・良い社風を持っていても、そもそも学生の記憶の中に候補として存在していなければ、比較の土俵にすら上がれません。
…御社の名前は、ここに存在すらしていない
→ ようやく、比較の土俵に立てる
大企業ばかりが目立つのは、悪意ではなく「構造」
これは、学生が中小企業を見下しているという話ではありません。広告費・知名度・メディア露出の量が違うだけで、単純に思い出す回数に差がついているだけなのです。先ほどのデータが示すとおり、学生の関心はすでに中小企業に向き始めています。足りていないのは魅力そのものではなく、その魅力を思い出してもらうための接点の数なのです。
対策①:接点の回数を増やす
利用可能性ヒューリスティックへの一番シンプルな対策は、学生の目に触れる回数そのものを増やすことです。求人サイトへの掲載だけで終わらせず、SNSでの発信、大学のキャリアセンターへの求人票の持ち込み、卒業生(OB・OG)を通じた紹介など、複数の経路で繰り返し接点を作ることが、思い出されやすさに直結します。
対策②:日常を見せて記憶に残す
接点の回数と同じくらい大切なのが、記憶に残りやすい具体性です。以前このブログでも触れたとおり、求職者は実態が見えない会社を無意識に避ける傾向があります(応募者の半数が中身の見えない会社を避けている――中小企業こそ効く「採用広報」の心理学)。社長の人柄が伝わるひとことや、社員の何気ない一日を切り取った投稿のほうが、抽象的な「アットホームな職場です」という言葉よりずっと記憶に残ります。
対策③:秋だからこそできる、丁寧な対応という差別化
もうひとつ、中小企業ならではの強みがあります。秋・二次募集の時期は、大手企業ほど選考のスピードや対応の丁寧さに余力がなくなりがちです。ここで一人ひとりの学生に時間をかけて向き合う姿勢そのものが、強く記憶に残る接点になります。求人票の言葉づかいについては「初任給を上げても、応募が来ない」――令和世代に本当に響く求人票の作り方でも触れましたが、任せてもらえそうという具体的な手応えは、金額の多寡よりも記憶に残るものです。
実際に、少人数だからこそ本物の仕事を任せられるという中小企業の強みは、サマーインターンの場面でも同じことが起きています(なぜ、地味な中小企業インターンのほうが学生の記憶に残るのか――サマーインターンで大手に勝つ心理学)。秋の二次募集でも、この任せる姿勢は生きてきます。
なお、業種・地域によって状況は一様ではありません
ここまで紹介したデータは全国平均の傾向であり、業種・地域・企業規模によって、学生からの応募状況には差があります。都市部と地方、製造業とサービス業でも学生の動き方は変わってきます。「うちの業種は特に厳しい」と感じる場合は、一般論をそのまま当てはめず、自社が置かれている個別の事情を踏まえて対策を組み立てることが大切です。
まとめ
秋の二次募集で応募が伸び悩むと、つい「うちには魅力がないのか」と考えてしまいがちですが、実際には学生の中小企業への関心はむしろ高まっています。足りていないのは魅力ではなく、思い出してもらうための接点かもしれません。
- 学生の中堅・中小企業志向は2年連続で増加、大手志向は2年連続で減少(マイナビ調査)
- 応募が来ないのは魅力不足ではなく、想起されにくさ(利用可能性ヒューリスティック)が原因のことがある
- 接点の回数を増やし、日常の具体性を見せ、丁寧な対応という中小企業ならではの強みを活かす
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