社長「先生、うちの面接、応募者の“人となり”を見るために、愛読書とか聞いてるんですけど、あれってダメなんですか?」
鎌倉「実は、それ結構際どい質問なんです。応募者の適性・能力とは関係のない項目を聞くのは、就職差別につながるおそれがあるとされているんですよ。」
社長「え、そうなんですか。悪気は全然なくて、むしろ会話のきっかけのつもりやったんですけど……」
鎌倉「その気持ち、よく分かります。応募者のことをもっと知りたい、ちゃんと見極めたいと思うからこそ、つい聞きたくなってしまうんですよね。今日は、面接で“聞いてはいけないこと”の正体と、その“もっと知りたい”をどう満たせばいいか、一緒に整理していきましょうか。」
求人票にも面接にも、聞いてはいけないことがある
厚生労働省は「公正な採用選考の基本」というガイドラインで、応募者の適性・能力に関係のない事項を、応募用紙に書かせたり面接で尋ねたりすることを控えるよう事業主に求めています(職業安定法に基づく行政指導)。就職差別につながるおそれがあるとされる代表的な項目は、次のようなものです。
- 本籍・出生地、家族の職業や収入、住宅状況など「本人の努力では変えようのない事項」
- 宗教、支持政党、人生観・生活信条、尊敬する人物、愛読書など「本来自由であるべき内心の事項」
「愛読書」も立派なNGワードのひとつで、応募書類の趣味欄に「読書」と本人が書いていたとしても、そこから愛読書を掘り下げて聞くことは、思想信条に関わる不適切な質問とされています。(趣味を面接でどう聞くかについては、こちらの記事でも触れています。)
変えられない事項
家族の職業や収入
住宅状況
内心の事項
人生観・生活信条
尊敬する人物
愛読書
関係のない項目は、
就職差別につながるおそれ
出典:厚生労働省「公正な採用選考の基本」
NGな質問には、共通する理由がある
なぜここまで厳しく制限されているのでしょうか。理由は大きく二つあります。ひとつは、これらが本人の意思や努力では変えられない、あるいは変える必要のない事項だということ。もうひとつは、思想信条や宗教観のような内心の自由に関わる事項を採用の合否の材料にしてしまうと、特定の立場の人を排除する差別につながりかねないという歴史的な反省です。
企業側に差別の意図がなくても、結果として合否に影響を与えれば「就職差別につながるおそれ」があると判断されます。先ほどの社長のように、単に人柄を知りたかっただけでも、その素朴な好奇心が制度としては危ういゾーンに踏み込んでしまうことがあるんです。
合否に影響すれば
「おそれあり」
では、経営者が本当に知りたいことは何か
社長「そしたら、面接で人柄を見るのは諦めるしかないんですか?」
鎌倉「いえ、そこは分けて考えたいところです。先生が本当に知りたいのは、愛読書そのものじゃなくて、“うちの会社に合う人かどうか”ですよね。」
社長「そうです、そうです。結局そこが一番知りたいところで。」
多くの経営者が面接で本当に確かめたいのは、思想信条そのものではなく、「自社の価値観や仕事の進め方に合うかどうか」という一点に尽きるのではないでしょうか。愛読書や尊敬する人物という質問は、その“合うかどうか”を手っ取り早く探ろうとした結果、うっかり踏み込んでしまった手段だったとも言えます。
「価値観が合う人」を求めてしまう心理学
ここで、心理学の視点をひとつ借りてみます。人は自分と似た価値観や考え方を持つ相手に、無意識のうちに好意や信頼を抱きやすいという性質があります。心理学では「類似性の法則(類似性-魅力効果)」と呼ばれるもので、似ている人ほど「話が通じる」「安心できる」と感じやすいという、ごく自然な心の働きです。
経営者が面接で人生観や愛読書を聞きたくなるのも、この“似た者同士は安心”という感覚を、無意識に確かめたくなっているからなのかもしれません。悪気があるわけではなく、むしろ人間として自然な反応だと言えます。
実際、少人数で意思決定のスピードが命の中小企業にとって、価値観の近い人材を集めることは、決して悪いことではありません。むしろチームワークや定着率を高める、有効な戦略のひとつだと言えるでしょう。大企業のように分業が進み多様な専門性を束ねる組織であれば話は別ですが、中小企業では“価値観が合う人を採りたい”という経営者の本音は、否定すべきものではなく、むしろ大事にしていい視点なのです。ただし、その価値観を確かめる手段として愛読書や思想信条を直接尋ねてしまうのは、法律上のNGライン。ここからは、価値観の合致を合法的に見極めるための、具体的な質問の工夫を見ていきましょう。
好意を抱く
確かめたくなる
※本文の考察をつないだ仮説です。悪気のない自然な反応でも、制度上は危ういゾーンに入ります。
愛読書を聞かずに、価値観を知る方法
社長「じゃあ、どうやって価値観の合う人かどうかを見極めたらいいんでしょう。」
鎌倉「答えはシンプルで、“内心そのもの”を聞くのではなく、“行動やエピソード”から読み取る、という発想に変えることです。」
例えば、次のように質問を変換してみましょう。
- 「愛読書は何ですか」→「最近の仕事の中で、大事にしたいと感じた考え方や、印象に残った出来事はありますか」
- 「休日は何をしていますか」で人となりを探る代わりに→「これまでの仕事で、一番やりがいを感じた瞬間はどんな時でしたか」
思想信条そのものを尋ねるのではなく、これまでの行動や具体的なエピソードを聞けば、法的にセーフな範囲のまま、その人が何を大事にしているかという“価値観のにじみ出る部分”を十分に感じ取ることができます。(面接でどんな質問をすればいいか迷ったら、事前に用意しておきたい質問リスト10選もあわせて参考にしてください。)
尊敬する人物も、エピソードに変換する
「尊敬する人物は」という質問も同じ発想で言い換えられます。「これまでの仕事の中で、影響を受けた人やその理由を教えてください」と聞けば、特定の思想・信条を評価する形にならずに、その人の価値観の輪郭を知ることができます。
ポイントは、“何を信じているか”を聞くのではなく、“何をしてきたか・何を感じたか”を聞くことです。過去の具体的な行動は、本人の意思で選んで積み重ねてきたものなので、そこから自然とにじみ出る価値観を評価材料にすることができます。
“何を信じているか”ではなく、“何をしてきたか・何を感じたか”を聞く。
面接官同士で「何が刺さったか」をすり合わせる
もうひとつ大切なのが、面接官が一人だけの感覚で「気が合いそう」と判断しないことです。面接後に、面接官同士で「どのエピソードが印象的だったか」「なぜそう感じたか」を言葉にして共有する時間を作ると、一人の“好み”に偏った採用判断を防ぎやすくなります。同じ質問でも人によって刺さり方が違うという心理学も、この面接官同士のすり合わせの大切さとつながる話です。
1 | 印象的だった エピソードは何か 面接官それぞれが振り返る |
2 | 「なぜそう感じたか」 理由を言葉にする |
3 | 面接官同士で言葉を共有する 一人の“好み”に偏った採用判断を防ぎやすくなる |
長年会社を見てきた経営者の勘は決して馬鹿にできないものですが、その勘の理由を一度言葉にして周りとすり合わせる一手間が、結果的に自社にとって本当に必要な人材を取りこぼさないための備えになります。
まとめ
- 「愛読書」「尊敬する人物」「思想信条」などは、本人の努力で変えられない事項・内心の自由に関わる事項として、面接で聞くことが就職差別につながるおそれがあるとされている
- 経営者が本当に知りたいのは思想信条そのものではなく「自社に合う価値観かどうか」であり、その裏には自分と似た相手を信頼しやすいという類似性の法則が働いている
- 内心を直接聞く代わりに、行動やエピソードを尋ねる質問に変換し、面接官同士で印象をすり合わせることで、法的に安全な範囲のまま価値観の合致を見極められる
面接での質問設計や、自社に合う人材の見極め方について、より詳しく相談したい方は採用支援サービスもご覧ください。

