「ハラスメントで訴えられたら」——叱り方を間違えて、こじれてしまった時の解決の道のり

「ハラスメントで訴えられたら」——こじれてしまった時の解決の道のり

「先生、この前教えていただいたSBIの話、さっそく取り入れてみたんです。……でも実は、もうこじれてしまっている社員がいまして。労働局から『お話を伺いたい』という連絡が来てしまいました」

先週、褒め方・叱り方の記事を読んでくださった社長から、こんなご相談をいただきました。「これから気をつけます」だけでは間に合わない、もうこじれてしまった問題を、どう解決すればいいのでしょうか。今日は、その”こじれてしまった後”の話をしようと思います。

目次

実は、珍しい話ではありません——ハラスメント相談は13年連続トップ

厚生労働省が発表した「令和6年度 個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、全国379ヶ所の総合労働相談コーナーに寄せられた相談は120万1,881件。そのうち、解雇や賃金といった「民事上の個別労働紛争」に関する相談は26万7,755件にのぼります。

その内訳で最も多いのが、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談で5万4,987件(全体の17.4%)。前年度からは8.5%減ったとはいえ、13年連続でトップです。次いで「自己都合退職」4万1,502件(13.1%)、「解雇」3万2,059件(10.1%)と続きます。決して、一部の”運が悪い”会社だけに起きることではないのですね。

「訴えられたら終わり」ではない——解決までには段階がある

「訴えられる」という言葉を聞くと、いきなり裁判所に呼び出されるようなイメージを持たれる方が多いのですが、実際にはそうではありません。労働トラブルの解決には、いくつかの段階があります。順を追ってご紹介します。

第一段階:社内での初動対応——ここが実は一番大事

2022年4月からは、中小企業にもパワハラ防止措置(相談窓口の設置など)が義務化されています。この詳しい内容は以前の記事でご紹介したとおりですが、実際に問題が起きたときこそ、この窓口が試される場面です。

訴えを受けたら、まず「誰が」「いつ」「何を言われた・された」と感じたのかを、当事者双方から丁寧に聞き取り、記録に残すこと。ここでの対応が誠実でなければ、その後どの段階に進んでも、話がこじれやすくなります。逆に言えば、社内での初動さえきちんとできていれば、その先の段階に進まずに収まるケースも少なくありません。

第二段階:労働局の「総合労働相談」「助言・指導」

社内だけでは収まらなかった場合、労働者側(あるいは会社側)が労働局の総合労働相談コーナーに相談することがあります。ここでの相談は無料で、労働局の担当者が話を整理してくれる、いわば”最初の窓口”です。

状況によっては、労働局長名で「助言・指導」が行われることもあります。これは法的な強制力を持つものではなく、あくまで話し合いによる自主的な解決を促すためのものです。令和6年度は、この申出が8,865件と、前年度より5.9%増えています。

第三段階:紛争調整委員会による「あっせん」

助言・指導でも解決に至らない場合、弁護士や学識経験者などで構成される「紛争調整委員会」が間に入り、双方の言い分を聞きながら合意を目指す「あっせん」という制度があります。令和6年度の申請件数は3,866件(前年度比4.9%増)でした。

あっせんは非公開・無料で行われ、裁判に比べて短期間で決着することが多いのが特徴です。合意が成立すれば、民法上の和解と同じ効力を持ちます。

それでもまとまらなければ「労働審判」

あっせんでもまとまらず、労働者側が本格的に争う意思を固めた場合は、地方裁判所の「労働審判」という手続きに進むことがあります。裁判官1名と、労働問題に詳しい労働審判員2名が審理にあたり、原則として3回以内の期日で決着をつけることを目指す、スピード重視の制度です。

手続きは非公開で、話し合い(調停)による解決を目指しつつ、まとまらなければ審判という形で結論が示されます。この結論に納得できない当事者が異議を申し立てると、通常の訴訟に移行します。

最終手段としての「民事訴訟」

ここまでの段階でも解決しなければ、最終的には通常の民事訴訟に進みます。裁判は公開の法廷で行われ、判決までに1年以上かかることも珍しくありません。弁護士費用や、対応にあたる社長・担当者の時間的な負担も相当なものになります。だからこそ、できるだけ手前の段階——社内対応やあっせんの時点——で決着させることが、会社にとっても、社員にとっても望ましいのです。

どの段階でも共通して大事なこと——結果より「聞いてもらえたか」

組織心理学に「手続き的公正」という考え方があります。人は、最終的な結果そのものよりも、その結果に至るまでの”やり方”が公正だったと感じられるかどうかで、納得できるかどうかが大きく変わる、という考え方です。

ハラスメントのトラブルも同じです。「ちゃんと話を聞いてもらえた」「一方的に決めつけられなかった」という実感があれば、たとえ会社側の主張が通らなかったとしても、そこから先まで争いがこじれることは少なくなります。逆に、聞く姿勢を見せないまま形だけの対応をすると、小さな行き違いが本格的な紛争にまで育ってしまうことがあります。評価やフィードバックの場面で属人的な”印象”に頼ることの危うさは、以前の記事でもお伝えしましたが、ハラスメント対応でも同じ落とし穴があるということですね。

中小企業が今すぐ備えられること

大きなトラブルに発展させないために、今日からできることは3つあります。

  • 就業規則にハラスメント防止の方針と相談窓口を明記し、社員に周知しておくこと
  • 相談窓口を「形だけ」で終わらせず、実際に相談が来たときに動ける担当者を決めておくこと
  • 日頃のやり取りを、パワハラと言われない伝え方も意識しながら、いつ・何を話したかを簡単にでも記録に残す習慣をつけること

このテーマの読み方に、ひとつだけ注意

ここまで一般的な制度の流れをご紹介しましたが、実際のケースは一つひとつ事情が異なり、どの段階からどう動くべきかは、状況によって大きく変わります。この記事は制度の全体像をつかんでいただくためのものであり、個別の法的な判断をお約束するものではありません。トラブルの気配を感じた時点、あるいはすでに労働局から連絡が来てしまった時点で、早めに社労士や弁護士といった専門家に相談することが、結果的に一番の近道になります。

まとめ

  • 労働トラブルの解決には「社内対応→労働局の相談・助言→あっせん→労働審判→訴訟」という段階があり、いきなり裁判になるわけではない
  • 早い段階、特に社内の初動対応が誠実であるほど、こじれずに収まる可能性が高い
  • 結果そのものより「聞いてもらえたと感じられるプロセス」が、紛争の長期化を左右する

ハラスメントのトラブルは、起きてしまってからでは対応の選択肢がどうしても狭くなります。就業規則の整備や相談窓口の実効性、評価制度の透明性まで含めて、こじれる前の”土台づくり”から一緒に整えていきたいという経営者の方は、経営の伴走顧問もぜひのぞいてみてください。

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