「先生、正直に言うとうちの若手、ちょっと注意しただけで次の日から覇気がなくなるんです。かといって褒めてばかりいると、今度はぬるくなる気がして……」
先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。叱れば萎縮する、褒めれば図に乗る(ような気がする)。令和世代の新入社員に、いったいどう接すればいいのでしょうか。実は今年、この悩みにヒントをくれる調査が発表されています。
新入社員500人に聞いた「理想の上司」——29年続く伝統調査
産業能率大学総合研究所が毎年実施している「新入社員の理想の上司」調査をご存じでしょうか。1993年から続き、2026年度で29回目という、新入社員の意識調査としてはかなり息の長い調査です。今回は2026年4月3日〜9日、2026年度入社の新入社員500人(男性253人・女性247人)を対象に行われました。
毎年発表されるたびに「今年の理想の上司は誰々」という芸能人ランキングの話題ばかりが取り上げられがちですが、経営者として本当に読むべきなのは、その理由として自由記述に挙がってくる言葉のほうです。
一番多かったのは「怖い上司」でも「優しい上司」でもなかった
今回の調査で最も多く挙げられた理想の上司像は、「安心して意見や質問ができる雰囲気をつくってくれる」というものでした。次いで「ミスをしたときにフォローしてくれる」「常に部下を気にかけてくれる」が続きます。
自由記述の理由欄には「優しい」という言葉も数多く登場していて、理想の男性上司への回答では68件、女性上司への回答でも50件にのぼりました。ここだけ見ると「なんだ、結局は優しければいいのか」と思ってしまいそうですが、話はそう単純ではありません。
でも「優しいだけ」でも、うまくいかないらしい
同じ2026年度の新入社員を対象にした別の調査(マイナビ研修サービス、7,986人対象)では、興味深い結果が出ています。今どきの若手は、実は「厳しい指導」自体を拒んでいるわけではなく、むしろ求めている面もあるというのです。ただし条件がひとつだけあります。その厳しさの背景にある「価値観」に共感できるかどうか、です。
つまり令和世代の新入社員が求めているのは、「優しさ」でも「厳しさ」でもなく、「なぜそうすべきなのか」への納得感なのですね。以前このブログで、「今どきの若手は違う」という決めつけそのものが誤解を生みやすいという心理学をご紹介しましたが(こちらの記事)、今回の調査結果も同じ方向を指しています。世代のせいにする前に、伝え方そのものを見直す余地がある、ということですね。
なぜ「昭和のやり方」だと響かなくなったのか
「背中を見て覚えろ」「四の五の言わずにやれ」——かつては、これで通じました。上司が理由をいちいち説明しなくても、部下のほうが「そういうものだ」と受け止めてくれたからです。ところが今の新入社員は、学生時代から「なぜその勉強が必要なのか」を先生や親から丁寧に説明されて育ってきた世代でもあります。理由の説明なしに命令だけが飛んでくると、納得できないまま従うことになり、それがストレスとして蓄積してしまう。叱られた本人からすれば、「何が悪かったのか」より先に「なぜそんな言い方をされたのか」が引っかかってしまうわけです。
心理学の「SBIフィードバックモデル」というものさし
ここで役に立つのが、海外のリーダーシップ研修でも広く使われている「SBIフィードバックモデル」という考え方です。フィードバック(褒める・叱る、どちらも含みます)を、次の3つの要素に分けて伝える、というシンプルな型です。
- S(Situation・状況):いつ、どんな場面でのことか
- B(Behavior・行動):相手が具体的に何をしたか(性格や人格ではなく、行動そのもの)
- I(Impact・影響):その行動が、周囲やお客様、チームにどんな影響を与えたか
ポイントは、「性格」や「人格」を評価の対象にしないことです。「だらしない」「やる気がない」といった人格への評価は、言われた側からすれば反論のしようがなく、ただ萎縮するか反発するかのどちらかしか選べません。一方、「状況」「行動」「影響」の3点セットなら、事実の話にとどまるので、納得感を持って受け止めてもらいやすくなります。
「叱る」をSBIで組み立て直すとこうなる
先ほどの社長の例で考えてみましょう。ミスを繰り返す新入社員に、「何度言ったらわかるんだ、しっかりしろ」と言ってしまうのが、これまでのやり方でした。これをSBIで組み立て直すと、次のようになります。
「さっきのお客様への納品連絡なんだけど(状況)、日付の記載が抜けたまま送ってしまったよね(行動)。おかげでお客様から確認の電話が入って、他の対応が一本止まってしまったんだ(影響)。次回からは送信前に、宛先・日付・添付の3点だけ声に出して確認してみようか」
「しっかりしろ」がなくなったぶん迫力は落ちますが、その分「何が問題で、次に何をすればいいか」がはっきりします。叱られた本人の頭に残るのは、上司の怖い顔ではなく、次にやるべき具体的な行動のほうになります。
「褒める」もSBIにすると、お世辞に聞こえなくなる
SBIは褒めるときにも同じように使えます。「最近がんばってるね」だけでは、本人からすると社交辞令にしか聞こえないことがあります。これをSBIにすると、「今日の商談で(状況)、お客様の質問に対して資料を見返さずに答えていたよね(行動)。おかげでお客様が『準備してきてくれているんだな』と安心した様子だった(影響)」となります。
具体的な場面が示されているぶん、「ちゃんと見てくれている」という実感につながります。抽象的な励ましより、こちらのほうがずっと本人の自信になるものです。
なぜ「すぐに」伝えることが大事なのか
SBIを使ううえで、もうひとつ大事なのがタイミングです。人の記憶は時間が経つほど曖昧になっていきます。1週間前のミスを月末の面談でまとめて指摘されても、本人はその時の状況を細かく思い出せず、「そんなこともあったかもしれません」という他人事の反応になりがちです。逆にその日のうちに、あるいはその場ですぐに伝えれば、状況も行動も本人の記憶に鮮明に残っているので、話がすっと入っていきます。褒めるときも叱るときも、「後でまとめて」ではなく「その場で、すぐに」が鉄則です。
中小企業だからこそ、SBIは使いやすい
SBIフィードバックは、実は大企業よりも中小企業のほうが実践しやすい手法です。大企業の管理職は部下の人数が多く、一人ひとりの具体的な行動を細かく見ている時間が限られています。その結果、評価がどうしても「なんとなくの印象」に頼りがちになり、それが評価の属人化を招くという話は、以前こちらの記事でもご紹介しました。
一方、中小企業では社長や上司が現場で一緒に動くことが多く、部下の具体的な行動をその目で見ている場面が圧倒的に多いはずです。「さっきの、あれ」で通じる距離の近さは、SBIのような具体的なフィードバックを最も活かせる環境でもあります。厳しさを封印して優しくすることだけが「令和世代への対応」ではありません。部下から本音を話したくなる上司というのも、結局は「ちゃんと見てくれている」という信頼の積み重ねからできているものです。
このデータの読み方に、ひとつだけ注意
ここまで2026年度の新入社員を対象にした調査をご紹介してきましたが、いずれも数百人〜数千人規模のアンケート調査であり、目の前にいる一人ひとりの新入社員に、同じ傾向がそのまま当てはまるとは限りません。育ってきた環境や職種、配属された部署の雰囲気によっても、響く伝え方は変わってきます。「令和世代だから、みんなこう」と決めつけてしまうこと自体が、実は一番避けたい落とし穴です。調査結果はあくまで全体の傾向として参考にしつつ、目の前の一人をよく観察することのほうが、最終的には近道になります。
まとめ
- 令和世代の新入社員が求めているのは「優しさ」でも「厳しさ」でもなく、「なぜそうすべきか」への納得感
- 褒めるときも叱るときも、性格ではなく「状況→行動→影響」の3点(SBI)で具体的に伝える
- フィードバックは後でまとめてではなく、その場で・すぐに伝えるほど記憶に残り、納得感につながる
叱り方・褒め方は、才能やセンスの話ではなく、型を知っているかどうかの差でもあります。人事ポリシーや評価制度といった仕組みづくりから、日々のフィードバックの伝え方まで、一緒に整えていきたいという経営者の方は、経営の伴走顧問もぜひのぞいてみてください。

