「ご検討ください」をやめただけで、内定承諾率が変わった話

「ご検討ください」をやめただけで、内定承諾率が変わった話

新車の商談も大詰め、契約書にサインする直前。営業担当からこう聞かれたことはありませんか。

「オプションは、何か付けられますか?」

正直なところ、この聞き方をされたら「特にいいです」と答えたくなりませんか。実はこの一言の設計だけで、お客さんの返事が大きく変わることが、営業の世界ではよく知られています。

目次

「付けますか?」と「どちらにしますか?」の差

よく知られている営業の型に、こんな聞き方があります。

「フロアマットとコーティング、どちらから決めましょうか?」

「付けますか?」は、付ける/付けないをお客さんにまっさらな状態で選ばせる聞き方です。一方「どちらから決めましょうか?」は、付ける前提で、順番や中身だけを選ばせる聞き方になっています。前者はゼロか百かの決断を迫られ、後者は「決まっていること」の中の枝分かれを選ぶだけで済みます。同じ内容を聞いているのに、答えるときの心理的な負担がまるで違うのです。

実際にこの聞き方を意識するようになってから成約率が上がった、という声を営業の現場でよく耳にします。もちろん、商品や顧客層によって効き方に差はありますし、「この聞き方に変えたら必ず何倍になる」という単純な話ではありません。それでも、聞き方ひとつで相手の答えやすさが変わるという事実は、多くの営業パーソンが体感として持っている感覚です。

これは車だけの話ではありません——ある社長からの相談

先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「先生、うちも内定出したのに、結局『検討します』って逃げられましてね……」

話を聞いていくと、内定を伝えるときの言葉が、こうなっていました。

「ぜひうちに来てほしいんですが、いかがでしょうか。ご検討ください」

無意識に使っている「NOと言いやすい質問」

これ、実は先ほどの「オプションは付けられますか?」と同じ構造なんです。「行きます/行きません」を、相手にまっさらな状態で選ばせています。迷っている候補者ほど、「検討します」という一番言いやすい返事に流れてしまいます。

候補者を責めているわけではありません。人生の大きな決断を迫られたとき、判断材料が少ないほど「とりあえず保留」に逃げたくなるのは、ごく自然な反応です。問題は、その”逃げ道”を、こちらが無意識に用意してしまっているという点にあります。

「ご検討ください」がなぜ一番断りやすい聞き方なのか

「ご検討ください」は、丁寧に聞こえます。マナーとしても間違っていません。ですが視点を変えると、これは「入社する/しない」という二択を、相手に丸ごと委ねる聞き方でもあります。特に転職は人生の大きな決断ですから、迷っている候補者に対してこの聞き方をすると、決断そのものを先送りする方向に背中を押してしまいかねません。

心理学の裏付け:オルタナティブクローズ

営業の世界では、この「選ぶことを前提にした質問法」はオルタナティブクローズ(選択肢クロージング)と呼ばれています。1960年代から使われている、営業心理学の定番テクニックのひとつです。「やるかやらないか」ではなく「AとB、どちらか」を聞くことで、断る心理的なハードルを自然に下げる型、と説明されます。

人は、選択肢が少ないほど早く決断できると言われます。逆に「決めるかどうか」という一番大きな決断をゼロから迫られると、判断に必要な心のエネルギーが一気に増え、結果として「今は決めない」という選択に逃げやすくなるのです。オルタナティブクローズは、その一番大きな決断をあらかじめ「決まっていること」として扱い、選ぶ範囲を小さくすることで、答えやすさをつくる仕組みだと言えます。

明日から使える言い換え例

面接や内定の場面でも、同じように言い換えることができます。

  • 「いかがでしょうか」→「入社日は、来月頭と月半ば、どちらがご都合よいですか?」
  • 「ご興味ありますか?」→「配属は営業と企画、どちらに興味がありますか?」
  • 「他に質問はありますか?」→「気になっているのは、条件面と仕事内容、どちらですか?」

どれも、相手に「入社する前提」で考えてもらうための問いかけです。もちろん、まだ入社を決めきれていない候補者にこの聞き方をぶつけると、逆に強引な印象を与えてしまいます。あくまで、面接の最終盤や内定通知の場面など、「背中をひと押しすれば決められる」段階にある相手に使うのが効果的です。

気をつけたいこと——押し付けにならないために

ただし、これは「相手を言いくるめる話術」ではありません。前提を押し付けすぎると、かえって不信感を持たれます。「もう決まっている風」に話を進められると、候補者側は「本当にこの会社は自分の意思を尊重してくれるのだろうか」と感じてしまうこともあります。

あくまで、迷っている相手の背中をそっと押すための聞き方だと捉えるのがいいでしょう。会社によって、候補者の温度感によって、効き方には差があります。すでに他社と迷っている候補者や、まだ判断材料が足りていない候補者には、無理に二択を突きつけるより、先に不安を聞き出すほうが優先です。

中小企業だからこそ、この一言が効く理由

初任給の金額や知名度で大企業と張り合うのは、中小企業にとってどうしても分の悪い戦いになりがちです。ですが、内定を伝えるときの「言葉の設計」には、お金も規模も関係ありません。むしろ、候補者一人ひとりと向き合う時間を取りやすい中小企業のほうが、こうした一言の工夫を丁寧に実践しやすいとも言えます。

採用担当者が一人しかいない、あるいは社長自身が内定連絡をしている、という会社も少なくないでしょう。だからこそ、この一言の言い換えは、明日からすぐに試せる小さな改善として取り入れやすいはずです。

まとめ

  • 「付けますか?」より「どちらにしますか?」の方が、答えやすい
  • これは営業心理学でオルタナティブクローズと呼ばれる、選ぶ前提をつくる型
  • 内定連絡や面接のクロージングにも、そのまま応用できる
  • 「ご検討ください」を使うたび、実は候補者に”逃げ道”を渡しているかもしれない
  • 押し付けにならないよう、あくまで背中を押す聞き方として使う

内定通知の場面でどんな言葉を選ぶかは、候補者が最後にもう一歩を踏み出せるかどうかを左右する、地味だけれど大事なポイントです。内定辞退を防ぐ心理学や、面接で刺さる聞き方の心理学もあわせて、選考の最後の一歩を後押しする工夫を積み重ねてみてください。採用の言葉づくりから面接設計まで一緒に見直したいという方は、採用支援サービスもご活用いただけます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次