「先生、うちの定番質問、キャリアのある方にはよく刺さるんですけど、若手に聞くと、なんかスッと入ってこない顔をされるんですよね」
ある経営者さんから、そんな相談を受けました。面接で聞く質問はいつも同じ。それなのに、候補者によって刺さり方がまったく違う。実はこれ、質問の中身の問題というより、“誰に向けて話しているか”がずれているサインかもしれません。
中途採用の広がりが、面接相手の“幅”を広げている
帝国データバンクが2026年3月に発表した「2026年度雇用動向調査」(全国23,568社対象、有効回答10,416社)によると、正社員の採用形態は新卒36.9%に対して中途採用が52.4%。中小企業ではその差がさらに開き、新卒30.7%・中途48.7%となっています。新卒中心の採用であれば、面接に来るのはほぼ同世代の学生です。しかし中途採用が主軸になるほど、面接の相手は20代から50代まで、価値観もキャリア観もばらばらな人たちになっていきます。にもかかわらず、多くの会社では「うちの定番質問」がひとつしか用意されていません。
「弊社は成長できる環境です」が響く人、響かない人
採用の現場でよく使われる殺し文句のひとつが「成長できる環境です」。しかしこの一言、誰にでも刺さるわけではありません。「早く成長して裁量を持ちたい」という人にとっては魅力的でも、「今の専門性を安定して発揮できる場所を探している」という人にとっては、むしろ「変化が激しくて落ち着かなそう」という不安材料に聞こえることさえあります。同じ言葉が、聞き手によって真逆の印象を生むのです。
期待理論(V.ブルームのモチベーション理論)とは
この現象を説明してくれるのが、心理学者ブルームが提唱した「期待理論」です。人がある行動にどれだけやる気を出すかは、①期待(頑張れば自分にもできそうだという実感)②道具性(頑張った結果が、ちゃんと望む見返りにつながるという確信)③誘意性(その見返りに、そもそもどれだけ魅力を感じるか)という3つのかけ算で決まる、という考え方です。どれか1つでもゼロに近ければ、全体のモチベーションはゼロに近づきます。面接での「響く・響かない」も、実はこの3つのどこかで候補者とすれ違っていることが多いのです。
「誘意性」は、世代よりも“キャリア観”で分かれる
ここで注意したいのは、「若手だからこう」「ベテランだからこう」と年齢だけで一括りにしないことです。実際に分かれるのは、その人がどんなキャリア観を持っているか。「裁量や成長機会に強く惹かれる人」もいれば、「安定した役割と正当な評価に惹かれる人」もいる。どちらが良い悪いではなく、その人が何に価値(誘意性)を感じているかを、面接の中で見極める必要があります。
「道具性」のすれ違いにも要注意
もうひとつ見落とされがちなのが「道具性」、つまり「頑張れば、ちゃんと報われる」という確信です。転職を重ねてきた人ほど、過去の職場で「頑張っても評価に反映されなかった」という経験を持っていることがあります。そういう人に「頑張れば道は開けます」と抽象的に伝えても、心には届きません。評価の基準や、実際に頑張った人がどう報われたかという具体的な事例を示せるかどうかが、道具性への信頼を左右します。
面接官が陥りがちな罠――自分の物差しで聞いてしまう
面接官は無意識のうちに、自分自身が入社を決めた理由や、自分が今も大事にしている価値観を基準に質問を組み立てがちです。自分がかつて「裁量の大きさ」に惹かれて入社したなら、その魅力を語ることに一番熱が入ってしまう。けれど目の前の候補者が同じものに惹かれるとは限りません。良かれと思って熱心に語った魅力づけが、実は候補者の誘意性とすれ違っていた、ということが起こりうるのです。
対策① 質問を「誘意性」「道具性」の切り口で複数用意する
「成長したいですか、安定したいですか」と直接聞いても、建前の答えしか返ってきません。それよりも「これまでの仕事で一番やりがいを感じた瞬間は?」「逆に、頑張っても報われないと感じた経験は?」というように、過去の具体的なエピソードを尋ねる質問を複数用意しておくと、その人が何に価値を感じ、何を信頼できずにいるかが自然と見えてきます。採用で「この人はうちに合う」と確信するために。事前に聞いておきたい質問リスト10選で紹介した質問も、この切り口で組み合わせると効果的です。
対策② 抽象的な魅力づけでなく、具体的なエピソードで語る
「成長できます」「風通しがいいです」といった抽象的なキャッチコピーは、誰にでも当てはまるようで、実は誰の心にも刺さりません。「入社2年目の社員が、こんな提案をして実際に採用された」「評価面談でこういうフィードバックがもらえた」というような、具体的な一場面を語れるかどうかが勝負です。「初任給を上げても、応募が来ない」――令和世代に本当に響く求人票の作り方で紹介した具体化の考え方は、面接の場でもそのまま活きてきます。
対策③ 面接官同士で「何が刺さったか」をすり合わせる
面接後、「どう思った?」という感想だけで終わらせず、「どの話をしたときに、候補者の表情や声のトーンが一番変わったか」を面接官同士で共有してみてください。積み重ねていくと、自社に応募してくる人たちが実際にどんな価値観を持っているのか、生きたデータとして見えてきます。オンライン面接で“いい人”を見誤る理由――中途採用のWEB面接、失敗しない見極め方で触れた事実と印象を分けて共有する姿勢は、ここでも役に立ちます。
面接は、会社の魅力を“確認する場”でもある
中途採用が採用の主軸になった今、面接で出会う相手はどんどん多様になっています。だからこそ、ひとつの決まり文句に頼るのではなく、「この人には何が響くのか」を面接の中で見極めながら会話することが、これまで以上に大切になってきています。自社だけでは質問の設計や面接官の育成が難しいと感じたら、採用支援という形で外からの視点をお借りするのもひとつの手だと思います。
まとめ
- 中途採用の広がりで、面接相手のキャリア観・価値観はますます多様になっている
- モチベーションは「期待×道具性×誘意性」のかけ算で決まり、同じ言葉でも響き方は人によって違う
- 抽象的な決まり文句に頼らず、具体的なエピソードで語り、面接官同士で何が刺さったかをすり合わせることが対策になる

