「初任給を上げても、応募が来ない」——令和世代に本当に響く求人票の作り方

初任給より効く言葉。令和世代に響く求人票とは

「先生、うちも初任給、他社に合わせて2万円上げたんです。それなのに、応募がまったく増えなくて……」

先日、ある製造業の社長さんからこんな相談をいただきました。がんばって初任給を引き上げたのに、求人サイトの応募数はほとんど変わらない。むしろ「うちより高いところに流れているのでは」と不安になる。そんな声を、この夏、何度も耳にしています。

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初任給を上げた企業は9割——でも、それだけでは戦えない

マイナビキャリアリサーチLabが2026年7月に発表した「2027年卒 企業新卒採用活動調査」によると、初任給を引き上げた企業は89.1%にのぼり、3年連続で増加しています。あらゆる規模の企業を含めた平均支給額は23.8万円(上場企業は25.5万円、非上場企業はそれよりおよそ1.8万円低い水準)です。

一方で、日本経済新聞社が2026年4月にまとめた調査では、初任給を30万円以上とする企業が前年から9割増の245社にのぼり、対象企業の平均は26.7万円まで上がっています。ニュースでよく目にする「初任給30万円」は、実は体力のある知名度の高い企業が中心の話。中小企業も含めた全体の相場としては、まだ24万円前後というのが実態のようです。もはや「初任給を上げる」こと自体は、採用の武器ではなく、同じ土俵に立つための入場券のようなものになりつつあるということでしょうか。

大企業も中小企業も、右へならえで初任給を引き上げる。その横並びの中で、体力のある大企業が「初任給30万円」という水準まで踏み込んでくれば、中小企業に勝ち目はありません。

なぜ、金額の土俵にとどまると中小企業が不利なのか

単純な話です。中小企業には、大企業と同じスピードで初任給を上げ続けるだけの体力がありません。今年がんばって2万円上げても、来年また大企業が上乗せしてくれば、追いかけっこは終わりません。金額という「同じものさし」で戦い続ける限り、勝ち筋は見えてこないのですね。

だとすれば、中小企業がやるべきことは、大企業と同じものさしで張り合うことではなく、そもそも別のものさしを求職者に示すことではないでしょうか。

令和世代は、本当に「お金」だけを見ているのか

「今どきの若い子は、条件が全てでしょう」という声もよく聞きます。たしかに、初任給や待遇は就職先を選ぶうえで欠かせない判断材料です。ただ、それが「唯一の決め手」かというと、実際はもう少し複雑なようです。

令和世代(Z世代)は、生まれたときから情報があふれる環境で育ち、SNSで他人の働き方を日常的に目にしてきた世代です。給与という「数字」だけでなく、「その会社で、自分がどう扱われるのか」という手触りの部分まで、意外なほど丁寧に見ています。

人が動機づけられる3つの条件——自己決定理論から

心理学に「自己決定理論」という考え方があります。人が仕事に前向きな意味を感じるには、大きく3つの条件が満たされている必要がある、という理論です。ひとつは「自律性」——自分で決められる感覚。ひとつは「有能感」——できるようになっている実感。そしてもうひとつは「関係性」——ちゃんと見てもらえている感覚です。

初任給の金額は、この3つのどれにも直接は触れていません。だからこそ、金額を上げただけでは応募が動かない、ということが起きるのではないでしょうか。中小企業がまだ十分に使いきれていないのは、実はこの3つの条件——とくに「自律性」を、求人票の”言葉”でどう伝えるかという部分です。

求人票に「自律性」を書き込む、具体的な言葉

「アットホームな職場です」「頑張り次第で活躍できます」——こうした言葉は、実はほとんど何も伝えていません。読み手にとっては、どの会社の求人票にも書いてある”背景色”のようなものだからです。

自律性を伝えるには、もっと具体的な”場面”を書く必要があります。「入社3年目で、担当商品の仕入れ判断を任されています」「新人の提案が実際に商品ラインナップに採用された実績があります」というように、誰が・いつ・何を任されたのかという具体を書くだけで、言葉の手触りはまったく変わります。

面接で伝わる「任せる」姿勢の見せ方

これは求人票だけの話ではありません。面接の場でも同じことが起きています。「うちは風通しがいいから」と口で言うより、「先週、入社2年目の子が出した企画がそのまま通ったんですよ」と、実際にあった出来事を語るほうが、何倍も説得力があります。

「先生、うちみたいな小さい会社に、そんな”任せた実績”なんてあるでしょうか……」と不安そうにおっしゃる社長さんもいます。でも、話を聞いていくと、たいてい一つや二つは見つかるものです。ただ、社長さん自身が「当たり前のこと」だと思っていて、言葉にしていないだけなんですね。

数字で見せる大企業、物語で見せる中小企業

大企業は、初任給の数字や福利厚生の一覧表で、安心感を見せることができます。組織が大きい分、一人ひとりの物語を丁寧に見せる余裕がないことも多いものです。

中小企業には、その逆の強みがあります。社長の顔が見え、社員一人ひとりの成長のいきさつを、具体的に語ることができる。「理念なき採用」が人材不足を加速させているという記事でもお伝えしましたが、会社の言葉が抽象的なままだと、せっかくの強みも求職者に届きません。金額で戦えないなら、物語の解像度で戦う。それが、この夏の中小企業に求められている転換ではないでしょうか。

「うちには物語なんてない」と思ったときに

こう説明すると、「うちには自慢できるような話はありません」とおっしゃる社長さんが少なくありません。でも、それは”自慢できる話”を探しているからかもしれません。必要なのは、大きな成功譚ではなく、「誰が・何を任されて・どうなったか」という、ごく小さな事実の一文です。

採用に関わる求職者向けの魅力づくりについては、採用成功のカギ!求職者がトキメク8つのポイントの記事でも詳しくお伝えしていますので、あわせて読んでみてください。

「言葉にする」だけで変わった、ある会社の求人票

以前ご相談いただいた印刷会社では、求人票の一文を「若手も活躍できる職場です」から「入社2年目の担当者が、地元の老舗菓子店のパッケージデザインを一人で任されました」に書き換えただけで、応募者からの反応がはっきり変わったそうです。

「先生、面接で”あの求人票のパッケージの話、詳しく聞きたいです”って言われたんです」と、社長さんがうれしそうに話してくれたのを覚えています。金額は一切変えていません。変えたのは、伝え方の解像度だけです。面接そのものの設計に不安がある方は、オンライン面接で”いい人”を見誤る理由の記事もあわせてご覧ください。

今日からできる3つの一歩

初任給の引き上げは、多くの企業が競い合う土俵です。中小企業がそこだけで戦い続ける必要はありません。今日からできることを、3つにまとめました。

  • 「任せた実績」を一つ書き出す——過去1年で、誰にどんな判断・仕事を任せたか。小さなことで構いません。
  • 抽象語を具体的な場面に置き換える——「風通しがいい」「アットホーム」を、実際にあった出来事の一文に変える。
  • 面接でも同じ物語を語る——求人票と面接で、伝える”物語”を揃えておく。

金額の横並びから一歩抜け出すには、大きな投資はいりません。すでに社内にある小さな物語を、言葉にして差し出すこと。それだけで、令和世代の受け止め方は、少しずつ変わっていくはずです。

求人票づくりや面接の設計そのものからじっくり見直したいという方は、採用支援サービスのページもあわせてご覧ください。

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