「先生、面接では感触よかったんですけどねぇ……」
先日、ある社長からそんな相談を受けました。中途採用で決めた新しいスタッフが、入社してわずか2週間で「思っていた人と違った」と現場から声が上がったというのです。面接では受け答えもハキハキしていて、印象は悪くなかった。でも実際に働いてもらうと、報連相が極端に少なく、周囲との温度差が埋まらない。「オンラインで面接したから、何かを見落としたんでしょうか」——社長はそう漏らしていました。
その勘は、あながち外れていません。マイナビの「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」(2025年12月・従業員3名以上の企業の人事担当者1,500名対象、2026年3月発表)によると、中途採用の面接全体に占める「WEB面接が50%以上」という企業の割合は51.9%で、前年から3.8ポイント上昇しました。中小企業でもWEB面接はもはや例外ではなく、標準の選考手段になりつつあります。
コストも時間も抑えられる便利なWEB面接。しかしその普及の裏側で、「画面越しだからこそ人を見誤る」という新しいタイプの採用ミスマッチが静かに増えているのではないか——今日はその心理学的な理由と、中小企業が今日からできる対策を考えてみましょう。
WEB面接が「当たり前」になった、この1年
数年前まで、WEB面接は「遠方の候補者向けの例外対応」という位置づけの会社が多かったはずです。ところが前述の調査では、面接の半分以上をWEBで行う企業が過半数を超えました。求職者側も複数社の選考を並行して受けやすいWEB面接を好む傾向が強まっており、企業側が対面にこだわると、そもそも選考の土俵にすら乗ってもらえないケースも出てきています。
中小企業にとっても、遠方の人材にアプローチできる・面接官のスケジュール調整がしやすい・移動時間がなくなる分だけ選考のスピードが上がる、といったメリットは非常に大きいものです。実際、当ブログでも以前「選考スピード」が内定辞退を防ぐという視点でお伝えした通り、スピード感のある選考は中小企業の強力な武器になります。WEB面接はその武器をさらに鋭くしてくれる手段でもあるのです。
便利さの裏で、経営者が感じ始めている違和感
一方で、私が経営者の方々とお話ししていて増えてきたと感じるのが、冒頭のような「面接の感触と、入社後の実際が食い違う」という相談です。
「先生、うちは面接で決めた人がすぐ辞めることが増えた気がするんです。対面の頃はそんなことなかったのに」——別の社長からも似た声を聞きました。人手不足の中で採用の絶対数が増えているという事情ももちろんありますが、それだけでは説明がつかない「見誤り」が、面接の形式そのものに潜んでいる可能性があります。
なぜ画面越しだと、人を見誤りやすいのか——「対応バイアス」という心のクセ
心理学に「対応バイアス(基本的帰属の誤り)」という考え方があります。人は誰かの行動を見たとき、その行動の原因を「状況」ではなく「その人の性格・能力」に結びつけて解釈してしまいやすい、という傾向のことです。
対面の面接であれば、多少通信環境が不安定になることも、部屋の照明が悪いことも起こりません。ところがWEB面接では、通信が乱れて言葉が途切れる・声が遅れて被って喋ってしまう・カメラ位置のせいで目線が合わない、といった「状況要因」が頻繁に発生します。本来ならその人の能力や人柄とは無関係なはずのこうしたトラブルを、面接官は無意識に「この人はテンポが悪い」「反応が鈍い」というその人自身の性質として受け取ってしまいがちなのです。
逆のパターンもあります。人は一つ良いところを見つけると、他の部分まで実力以上に良く見えてしまうものですが、WEB面接では背景・照明・カメラ映りといった「見た目の演出」がその引き金になりやすいのです。整った自宅オフィスやきれいな身だしなみに好印象を持ち、肝心の受け答えの中身への評価が甘くなってしまう——冒頭の「感触は良かったのに」という社長の言葉は、まさにこの状態だったのかもしれません。
非言語情報が減ることも、見誤りに拍車をかける
対面の面接では、姿勢・呼吸・視線の細かな動き・場の空気の変化など、無意識のうちに拾っている情報がたくさんあります。WEB面接ではその多くが画面という小さな枠に圧縮され、しかも通信の遅延によって微妙にズレて伝わります。判断材料そのものが減っているにもかかわらず、面接官は「その少ない情報だけで結論を出さなければ」という感覚に追い込まれ、限られた手がかりから性急に人物像を決めつけてしまう——これも対応バイアスを強める一因です。
実際に起きているミスマッチのパターン
現場でよく見られるのは、次のようなケースです。
- 通信トラブルで受け答えがぎこちなくなった候補者を「コミュニケーション力が低い」と評価し、優秀な人を見送ってしまう
- 逆に、身だしなみと背景が整っているだけの候補者を「しっかりした人」と判断し、実務面での確認が甘くなる
- 画面越しの短い会話だけで「感じが良かった」という主観的な印象が強く残り、具体的な実績・行動の確認が疎かになる
いずれも、面接官の能力の問題というより、WEB面接という「形式」が引き起こしている構造的なクセです。だからこそ、個人の注意力に頼るのではなく、選考の”仕組み”側で対策する必要があります。
対策①:質問はその場の思いつきでなく、事前に固定しておく
面接官の印象に左右されにくくするには、候補者全員に同じ質問を同じ順番で聞く「構造化面接」が有効です。以前ご紹介した事前に聞いておきたい質問リストのように、聞くべき項目をあらかじめ固定しておけば、通信トラブルで会話のテンポが乱れても、評価の軸自体はブレにくくなります。
対策②:「その場の印象」でなく「過去の行動」で聞く
「弊社に合いそうですか」「意欲は感じられましたか」といった印象ベースの質問は、対応バイアスの影響をもろに受けます。代わりに「前職で意見が対立したとき、具体的にどう対応しましたか」というように、過去の具体的な行動を尋ねる質問にすると、通信環境という状況要因に判断が引っ張られにくくなります。行動事実は、画面越しでも変わらない情報だからです。
対策③:最終選考は、できる限り対面を組み合わせる
WEB面接の効率の良さは手放したくないところです。だからこそ、一次選考はWEBでスピーディーに進めつつ、内定を出す前の最終段階だけは、可能な範囲で対面のオフィス見学や社員との顔合わせを組み込むことをおすすめします。実際の職場の空気を感じてもらうことは、候補者側の入社後ギャップを減らす効果もあり、双方にとってのミスマッチ防止になります。
対策④:面接官どうしで「見えていたもの」をすり合わせる
複数人で面接をした場合は、評価をつける前に「あなたはどう感じましたか」とすぐに聞くのではなく、まず各自が「実際に何を見た・聞いたか」という事実だけをそれぞれ書き出してから共有するのがおすすめです。以前の記事でも触れた通り、「いい人そう」という印象は面接官同士で伝染しやすいものです。事実と印象を分けて共有することで、一人の対応バイアスがそのままチーム全体の評価を決めてしまう事態を防げます。
「先生、正直そこまでやる余裕ないんですけど……」という声も聞こえてきそうです。ですが、これらはどれも面接の時間を増やすものではなく、面接の”前”と”後”にひと手間を加えるだけの工夫です。ミスマッチによる早期離職・再採用のコストを考えれば、決して割に合わない投資ではないはずです。
まとめ
WEB面接が中途採用の過半数を占める時代になり、中小企業にとってもコストと時間の面での恩恵は計り知れません。ただし、その便利さと引き換えに、画面越しならではの「見誤り」が起きやすくなっていることも事実です。
- 通信トラブルや画面越しの制約という「状況」を、無意識に「その人の性格」のせいにしてしまう(対応バイアス)
- 質問は事前に固定し、印象でなく過去の具体的な行動を聞く
- 最終段階は対面を組み合わせ、複数の面接官で「事実」と「印象」を分けて共有する
WEB面接そのものをやめる必要はありません。「画面の向こうで、自分は何を見落としやすいのか」を面接官自身が知っておくこと。それだけで、採用の精度は大きく変わってくるはずです。採用・選考の仕組みづくりでお悩みの際は、採用支援サービスもぜひご活用ください。

