「うちの若い子、ちょっと注意しただけで翌日から表情が変わるんですよ」——先日お会いした社長が、少し困ったような顔でそうおっしゃいました。「叱られ慣れていないんでしょうかね。私らの若い頃は、灰皿が飛んできたくらいで済んでいましたけど」。
思わず笑ってしまいましたが、この「今どきの若手は違う」という感覚、経営者や管理職の方から本当によくお聞きします。実際、検索でも「昭和 平成 令和 違い」「令和世代」という言葉はとても多く調べられていて、多くの方が同じモヤモヤを抱えていることがうかがえます。ただ、心理学の視点から見ると、この”違い”の正体は、私たちが思っているものと少しズレているかもしれません。今日は「世代のすれ違い」の正体を、丁寧にほどいていきたいと思います。
「昭和・平成・令和」で、本当に価値観は違うのか
終身雇用が当たり前だった昭和、成果主義が広がった平成、そして働き方の多様化とタイムパフォーマンスが重視される令和。たしかに、それぞれの時代で「働くこと」の意味は大きく変わってきました。「叱って伸ばす」よりも「対話で引き出す」ことが好まれるようになったのも、時代の空気の変化として実感されている方は多いのではないでしょうか。
ただ、ここで一つ、心理学が投げかける少し意地悪な問いがあります。それは「その違いは、本当に”世代”のせいなのでしょうか」というものです。
心理学が教える不都合な真実——「世代差」の正体
発達心理学には「コーホート効果」と「エイジング効果(加齢効果)」という、よく似ているけれど中身がまったく違う2つの概念があります。
コーホート効果とは、同じ時代に生まれ育ったことで共有される価値観の違いのこと。一方のエイジング効果とは、単に「若いから」「経験が浅いから」生じる違いのことです。つまり、20代の部下が慎重に見えたり、指示待ちに見えたりするのは、令和という時代のせいではなく、単に「まだキャリアが浅い人は、いつの時代もそうなりやすい」というだけかもしれない、ということですね。
実際、心理学の世代研究の多くは「世代差は、私たちが思うほど大きくない」「多くは年齢や役職による違いに過ぎない」と結論づけています。昭和世代の方も、新人の頃は上司の理不尽な指示に内心では戸惑い、飲み会をできれば断りたいと思っていたはずです。ただ、それを口にできる空気があったかどうか、という違いのほうが大きいのかもしれません。
社長との対話——「打たれ弱い」の中身を分解してみる
「でも実際、うちの若手は本当にすぐへこむんですよ」と、その社長は続けました。私は「へこむ、というのは具体的にどんな場面ですか」と聞いてみました。
「みんなの前で、ミスを指摘したときですね。以前ならその場で『すみません』で終わったのに、今は黙り込んでしまって」。
「なるほど。それはもしかすると、”打たれ弱さ”というより、”人前で指摘される”という状況そのものへの感じ方が変わってきているのかもしれませんね」とお伝えしました。SNSが当たり前の環境で育った世代は、「人前での評価」に対する感度がそもそも高い傾向があります。これは弱さというより、育った環境が違うだけとも言えるのではないでしょうか。
すれ違いの正体は、実は”叱り方”に集中している
興味深いのは、経営者の方々からの「世代の違い」に関する相談の多くが、実は「叱り方・伝え方」の一点に集中しているということです。仕事の進め方そのものではなく、「注意したときの反応」がすれ違いの震源地になっているケースが非常に多いのです。
上司世代は、無意識のうちに「叱られたら次に活かして黙って頑張るはずだ」という反応を部下に期待しています。ところが返ってきた反応がその予測から外れる(黙り込む、翌日から元気がない)と、驚きとともに強いストレスを感じてしまうのです。つまりイライラの正体は、部下の弱さそのものではなく、「自分の予測が裏切られたこと」への戸惑いだったりします。
なぜ叱責はこんなに記憶に残るのか
もう一つ知っておいていただきたいのが、人の脳の癖です。人は、ポジティブな出来事よりもネガティブな出来事のほうを強く、長く記憶するようにできています。心理学の実験では、1つのネガティブな体験を打ち消すには、5つ以上のポジティブな体験が必要だとも言われているほどです。
上司にとっての「軽く一言注意しただけ」は、部下の記憶の中では実際よりずっと重く刻まれている可能性があるということです。これは世代を問わない人間の脳の仕組みであり、令和世代だけが特別に敏感なわけではありません。ただ、日頃から褒める・認める機会が少ない職場ほど、この一言のダメージ比率は相対的に大きくなってしまいます。
「叱られ慣れていない」は本当か——教育環境の変化と、個人差という落とし穴
とはいえ、まったく世代による傾向差がないわけでもありません。体罰や怒鳴る指導が学校教育の現場から大きく減り、心理的安全性という言葉が浸透した環境で育ってきた世代が一定数いるのも事実です。そうした環境変化そのものは、経営者として理解しておく価値があります。
ただし、ここで気をつけたいのが「レッテル貼り」の落とし穴です。「令和世代だから打たれ弱い」と決めつけてしまうと、実際には打たれ強い若手にまで腫れ物扱いをしてしまい、逆に「信頼されていない」という別のすれ違いを生んでしまいます。世代はあくまで傾向であって、個人差のほうがずっと大きいというのが、より正確な理解です。
「褒められたいだけ」ではなく、本当に求めているもの
「今の若い子は褒められたいだけなんでしょう」という声もよく耳にしますが、これも少し的を外しているかもしれません。多くの場合、単に褒めてほしいのではなく、「自分の成長を実感したい」「頭ごなしではなく、理由を説明してほしい」「一人の人間として尊重されたい」という欲求のほうが強いのです。これは令和世代に限らず、すべての世代に共通する、人が仕事に求める基本的な欲求でもあります。
今日からできる3つの工夫
ここまでの話を、明日からの現場で使える形に落とし込んでみましょう。
工夫1:レッテルを外して、まず個人を見る
「令和世代だから」という枕詞を一度手放し、「この人はどんな反応をする人か」を個別に観察してみてください。世代というレンズを外すだけで、驚くほど的確な接し方が見えてくることがあります。
工夫2:「事実→影響→リクエスト」の順で伝える
「なんでこんなミスしたの」ではなく、「①この部分にミスがあった(事実)→②このままだとお客様に迷惑がかかる(影響)→③次回はここを確認してほしい(リクエスト)」という順で伝えると、人格否定と受け取られにくくなります。伝えた後に「ここまではよくできていたよ」と具体的な良かった点を一つ添えるだけで、記憶に残る印象が大きく変わります。
工夫3:最初に「期待値」をすり合わせておく
「うちは率直に指摘し合う職場です。それは期待しているからです」と、入社時や配属時にあらかじめ言葉にしておくことも有効です。若手社員とのすれ違いが表面化しやすいのは、まさにこうした前提のズレが積み重なった時です。期待値を先に共有しておくだけで、いざ指摘したときの受け止められ方は大きく変わります。
世代論を、経営の武器に変える
世代ごとの働く価値観の違いそのものは、決して無視してよいものではありません。時代背景を理解しようとする姿勢は、経営者として大切なことです。ただ、その理解を「決めつけ」や「言い訳」に使ってしまうと、かえって組織のコミュニケーションを固くしてしまいます。
「今どきの若手は」という一言が出そうになったときこそ、一呼吸置いて、「これは世代の話だろうか、それとも一人の人間としての個性の話だろうか」と自分に問い直してみる。その小さな習慣が、すれ違いを溝にしない、いちばん確実な近道なのかもしれません。こうした組織内のコミュニケーション設計は、経営の伴走顧問の中でも、評価制度や面談制度とセットでよくご相談いただくテーマの一つです。
まとめ
- 「世代差」の多くは、実は「年齢・経験の浅さ」による違いである可能性が高い
- 叱責がすぐ記憶に残るのは、ネガティブな出来事を強く記憶する人の脳の癖であり、世代特有の弱さではない
- レッテルを外し、「事実→影響→リクエスト」の順で伝え、あらかじめ期待値をすり合わせておくことが、世代を超えたすれ違いを防ぐ近道になる

