「また最低賃金が上がった…」
ここ最近、経営者の口から一番よく聞く言葉かもしれません。
今年も6%以上の引き上げが決まり、1978年以来の最高額。
政府は2020年代に最低賃金全国平均1,500円を目指すという高い目標を掲げています。
ただし、これはあくまで政策的な目標であり、毎年7%前後の引き上げを5年間続ける必要があるため、専門家からは「達成は容易ではない」とも言われています。
それでも、実現する可能性がある以上、経営者としては備えを進めておくしかありません。
賃上げは一時的な問題ではない
「助成金や補助金を使えば、なんとかなるんじゃない?」
そう思う方もいるかもしれません。
確かに助成金や補助金は有効です。
短期的には“つなぎ資金”として会社を支えてくれるでしょう。
でも、賃上げは一度したら下げられません。
「今年は助成金で乗り切れたけど、来年はどうしよう?」
そんな悩みが毎年続くことになります。
だからこそ、答えはひとつ。
中長期での生産性アップと社員の成長しかありません。
「社員を育てる」以外に解決策はない
賃金を上げるのは簡単です。
問題は「上げた賃金に見合う成果をどう出すか」。
ある経営者さんがこう嘆いていました。
「うちはもう時給1,200円にしたけど、生産性は上がってない。正直しんどい…」
この言葉の裏にあるのは、「社員をどう成長させるか」というテーマ。
人事制度や評価制度をうまく運用できれば、社員は成長し、会社の利益も伸びていきます。
結果として、賃上げをしても労働分配率が悪化しない状態がつくれるのです。
実際には、まず小さなステップから始めるのが効果的です。
「新人研修を整える」
「評価面談を年2回からきちんと実施する」
「スキルチェックシートを作る」
こうした当たり前の仕組みを少しずつ積み重ねるだけで、立派な“成長制度”の第一歩になります。
採用と定着も「成長制度」がカギ
「人件費が高いから人を減らそう」
短期的にはそういう選択をする会社も出てくるでしょう。
でも、今の若手は敏感です。
「成長できる職場かどうか」で会社を選びます。
賃上げだけでなく、成長環境を整えないと採用も定着も難しくなっていくのです。
例えば…
「この会社ではスキルが身につく」
「先輩が丁寧に教えてくれる」
「キャリアアップの道が見える」
こうした環境があるかどうかで、応募数も定着率も大きく変わります。
助成金の活用も有効な手段
私が副所長を務める福岡労務経営事務所(社労士)では、顧問先の企業様に以下のような助成金の活用をおすすめしています。
- 業務改善助成金
最低賃金引き上げに取り組む中小企業を対象とした助成金。
特徴的なのは、雇用保険に入っていないパート・アルバイトも対象になる点です。
特にアルバイト比率が高い飲食業などでは使いやすい制度です。 - キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)
非正規雇用の方の処遇改善や賃金規定の整備に使える助成金。
「時給だけ上げて終わり」ではなく、制度として継続できるようになります。
もちろん助成金はあくまで“きっかけ”に過ぎません。
ただ、導入期のコストを和らげてくれるので、経営者にとっては心強い支援策です。
経営者が今すぐ始めるべきこと
最低賃金1,500円は、もう“遠い未来の話”ではありません。
あと5年。長いようで、会社の制度を整えるには決して余裕のある時間ではありません。
では、経営者がまず取り組むべきことは何か。
- 助成金・補助金を調べて、当面のキャッシュを確保する
- 人事制度(成長制度)を整え、社員の評価と成長の仕組みをつくる
- 社員教育に投資し、「賃金に見合う成果」を生み出す流れを早く回し始める
- 採用時から「成長できる会社」であることを発信する
これらを一歩ずつ進めていくしかありません。
賃上げはピンチかチャンスか?
最低賃金の引き上げは、確かに経営を直撃します。
でも裏を返せば、他社との差別化のチャンス。
「うちは社員を育てているから、賃上げしても利益は確保できる」
こう言える会社だけが、人材を集め、定着させ、未来を切り開けるのです。
経営者としての選択肢はシンプルです。
賃上げに追われる5年間にするか。
それとも社員と一緒に成長し、未来をつくる5年間にするか。
答えは、もう決まっているのではないでしょうか。

