「最近、社員がすぐ辞めてしまう」
「やる気が感じられない」
――そんな悩みを抱える社長や人事担当者が増えています。
米Gallup社が発表した2025年版調査によると、日本の従業員エンゲージメント率は世界平均21%に対してわずか7%と、141カ国中でも最下位クラスでした。
しかも、多くの日本の従業員は
「仕事から充実感を得ていない」
「職場で感謝されていない」と感じていることが明らかになっています。
この数字だけを見るとショックですが、裏を返せば改善の余地が大きいとも言えます。
本稿では、なぜ日本のエンゲージメントが低いのか、その理由を心理学・行動経済学の視点から探り、中小企業がすぐに取り組める具体策を紹介します。
「やって当然」マインドがやる気を奪う
「うちの社員は報連相ができて当然だ」
「社会人なら遅刻はありえない」。
こうした「〜すべき」という信念は、実は社長自身の期待と現実のギャップを生み、怒りやイライラの原因になりやすいと心理学者アルバート・エリスは説きました。
社員に対する期待が強すぎると、できていない現実に過敏になり、感情的に反応してしまいます。
結果、社員は萎縮し、本音が言えなくなる。
これはエンゲージメント低下の典型的な悪循環です。
セリフで見る期待の落とし穴
社長「なんで時間通りに出社できないんだ!社会人として当たり前だろう?」
社員「…すみません。子供が急に熱を出してしまって…」
社長「言い訳は聞きたくない!」
このやり取りでは、社長が自分の価値観を押し付け、相手の事情を聞く余裕がありません。
社員も本音を話せず、「この会社では理解してもらえない」と感じてしまいます。
自律性・成長・関係性――やる気の三大要素
心理学者エドワード・デシの自己決定理論では、人が内発的動機づけを高めるために必要な要素として
「自律性」
「有能感(成長)」
「関係性」の3つが挙げられます。
Gallupの調査でも、日本の従業員は
「マネージャーからの支援が足りない」
「職場で感謝されていない」と感じている割合が高いと指摘されています。
これは関係性の欠如が大きな問題になっていることを示しています。
セリフで考える自律性と成長支援
社員「このやり方、ずっと同じでいいんですか?」
上司「うーん、今までこれでやってきたからね」
社員「新しいツールを試してみたいんですが…」
上司「失敗されたら困るから、余計なことはしないで」
自律性を奪われた社員は意欲を失い、ただ指示を待つようになります。
逆に、失敗も含めて挑戦を応援すると、社員は成長を実感しやすくなります。
国際比較から学ぶエンゲージメント施策
カナダでは従業員エンゲージメント調査を四半期ごとに実施し、フィードバックを基に上司が部下と対話する「パルスサーベイ」が広がっています。イスラエルのスタートアップでは、社員が自主的にプロジェクトを選べるシステムを導入することで自律性を高めています。
欧米企業の成功事例に共通するのは、定期的な対話と小さな改善の積み重ねです。
中小企業が今すぐできる7つの具体策
ここからは、限られたリソースでも実践しやすい施策を紹介します。
- 週1回の「問いかけミーティング」
形式ばらない雑談の中で
「最近うれしかったことは?」
「困っていることはある?」
と質問し、社員の声を引き出します。 - 小さな成功を可視化する掲示板
営業成績だけでなく
「クレーム対応で感謝された」
「後輩に丁寧に教えた」
など行動プロセスを称賛する。 - 1on1でキャリアの方向性を確認
半年に一度、社員のキャリアビジョンや学びたいスキルを聴き、成長の機会を提示します。 - フレックスタイムやリモートの柔軟運用
子育てや介護との両立を支援し、仕事と私生活のバランスを取りやすくします。 - 感謝のカード文化
日頃の感謝をメッセージカードや社内チャットで伝え合う仕組みを設け、関係性を強化します。 - 新入社員オンボーディングの充実
最初の3カ月間はメンターを付け、不安や疑問を気軽に相談できる環境を整えます。 - 心理的安全性を守るルール制定
他者の発言を否定しない、意見に対する報復を禁止する、といったガイドラインを全社で共有します。
行動経済学から学ぶインセンティブ設計
人は金銭的な報酬だけでなく、社会的認知や自由度に強く動機づけられます。
小さな賞与よりも
「みんなの前で頑張りを称える」
「役職名を変えて責任と自由を与える」
といった非金銭的インセンティブが効果的な場合があります。
また、損失回避の心理を利用して
「3か月続ければ特別休暇を付与するが、途中で離職すると権利が失われる」といった制度も有効です。
社内対話の質を高める言葉選び
言葉一つで相手の受け取り方は大きく変わります。
×「どうしてこんな簡単なこともできないの?」
〇「ここが難しかったんだね。どうすればうまくいくか、一緒に考えよう」
×「だから言ったじゃないか!」
〇「次はどう改善できそう?あなたのアイデアを聞きたいな」
このように、否定的な表現を避け、未来志向の質問に変えるだけで、社員は安心して意見を出せるようになります。
まとめ:社長自身の心の余白がカギ
Gallupのデータが示すように、日本の職場はまだまだ変革の余地が大きいといえます。
重要なのは、社長自身が「こうあるべき」という思い込みを手放し、社員一人ひとりの価値観や背景に耳を傾けることです。
ちょっとした声かけや小さな制度変更からでも、人は驚くほど変わります。
「社員のやる気がない」と嘆く前に、自社のコミュニケーションや制度を見直し、心理的安全性や自律性を高める仕組みを整えてみませんか。
7%の壁は高いようでいて、一歩踏み出す勇気があれば超えられる壁です。

