若手が辞める“優しい職場”の違和感
💬「最近の若い子って、怒られるのに慣れてないんですよね」
💬「やさしくしてるつもりなのに、いつのまにか辞めちゃう」
💬「またメンタル不調で退社が出た」
そんな相談を、社長さんからよく受けます。
もちろん、怒鳴るような昭和的パワハラは時代遅れ。
でも、「やさしい職場」なら大丈夫、とは限らないのです。
最近じわじわと増えているのが、“ゆるブラック職場”。
見た目は優しく働きやすそうなのに、実は中で人が疲弊している。そんな職場です。
ゆるブラック職場にありがちな特徴
🔸 怒られないし、自由にやっていい雰囲気
🔸 でも、何をやれば評価されるのかがわからない
🔸 指示はされないけど、あとから「それ違うよ」と言われる
🔸 困っても、誰に相談すればいいかが曖昧
🔸 がんばっても「見てくれているのかな」と不安になる
つまり、「ルールも期待もあいまい」。
一見ゆるくて自由。でも実は、社員にとっては**“何をすればいいのかわからない”というストレス**にさらされている状態です。
「上司がやさしいのに、部下がメンタル不調」の理由
👤 上司:「自由にやっていいよ」
🤔 部下:「……(何をしたらいいかわからない。合ってるのかな…?)」
👤 上司:「何かあったら相談して」
🤔 部下:「(何が“何か”かも分からない…)」
これは、“境界線(バウンダリー)”が曖昧な状態です。
人は、「どこからどこまでが自分の役割か」が見えているときに安心して動けます。
逆にその線引きがあいまいだと、不安で動けなくなるのです。
自律型社長には見えにくい“部下の不安”
社長や経営者の多くは、「言われなくても動くタイプ」です。
だからつい、
「これぐらい自分で考えて動いてほしい」
「指示がないと動けないなんて…」
と思ってしまうかもしれません。
でも実際には、「ゴールが見えている」「迷ったときに聞いていいタイミングが決まっている」などの**構造化(structuring)**があることが、社員にとって安心して働ける条件になります。
子育てと同じ。“やさしさだけ”では不安になる
子どもに「なんでも好きにしていいよ」と言い続けたら、どうなるでしょう?
最初は自由を喜んでも、
そのうち「何が正解かわからない」「ルールがないのが不安」になっていきます。
これは、心理学でもよく知られる「構造化の欠如=見捨てられた感覚」の典型です。
ルールや一貫性のない環境は、自己肯定感の低下やメンタル不調の原因になることがあります。
上司と部下の関係も、実はここによく似ています。
「なんでも相談していいよ」
「自由にやってね」
この“やさしさ”が、実は押し付けになってしまっていることもあるのです。
境界線があるからこそ、信頼される
✅ どこまで自分で判断していいのか
✅ どこから上司が決めるのか
✅ どんなときに相談すればいいのか
こういった“線”が明確になっていれば、
部下は安心して自分の力を発揮できます。
逆に線があいまいなままだと、
「このままでいいのかな…?」
「勝手に進めて怒られないかな…」と、常に不安を抱えることになります。
【実践】境界線を引くヒント5選
「大事なのはわかったけど、どうやって境界線を引けばいいの?」
そんな声にお応えして、すぐに使える実践例をご紹介します。
📌 1. 「任せる範囲」をはっきり伝える
→「この部分はあなたに任せたい」
→「ここから先は私が判断するね」
責任の起点が明確になるだけで、ぐっと安心感が増します。
📌 2. “迷ったときのルール”を決めておく
→「迷ったらまずは◯◯さんに聞く」
→「判断に悩んだら、一度止まって相談してね」
迷いの“逃げ道”があるだけで、行動のハードルが下がります。
📌 3. 相談しやすい空気を作る
→「どんな小さなことでも聞いてくれていいからね」
→「質問、大歓迎!」
こういった言葉を日常的に伝えることで、心理的安全性が高まります。
📌 4. 役割と責任は“セット”で伝える
→「この案件は担当してほしい。何かあれば最終責任は私が取るよ」
“安心”と“挑戦”をセットにすることで、部下の行動力が育ちます。
📌 5. 振り返りの場を、あらかじめ決めておく
→「納品が終わったら一度ふりかえろう」
→「1週間に1回は面談しよう」
こうした時間を習慣にすることで、自然と信頼関係と境界線が育ちます。
境界線=冷たいこと、ではありません
むしろそれは、部下が安心して働くための“地図”を描いてあげること。
その地図があるからこそ、部下は自分の居場所を知り、力を発揮できるのです。
やさしさ × 境界線 = 本当の心理的安全性
最近よく聞く「心理的安全性」という言葉。
これは「なんでも自由に話せること」ではなく、
**「話しても大丈夫だと思える安心感」**のことです。
そのためには、やさしさだけでなく、
線引きをする勇気・一貫性・責任の明確化が必要です。
✅ ルールを明確にする
✅ 注意すべきときは、ちゃんと伝える
✅ 共感しながらも、責任は分けて持つ
こういった「やさしさ+構造」の両立が、真の心理的安全性を生みます。
【社長・管理職にこそ伝えたいこと】
「うちは優しい職場だから、大丈夫」
そう思っている会社ほど、実は“ゆるブラック化”のリスクをはらんでいます。
やさしさに、もう一歩。
責任の線引きと、育てる覚悟を持つこと。
これは、社長だけでなく、現場の管理職にとっても非常に重要な視点です。
私自身の反省も込めて
私も、昔 父の社労士事務所で管理的な立場を任されたとき、
「やさしくあろう」とするあまり、部下をかばいすぎた経験があります。
いつも味方でいようとしていた結果、
本人の成長の機会を奪い、チーム全体のバランスも崩れてしまった。
いま思えば、大きな反省です。
部下との距離感に悩む中間管理職ほど、
やさしさと線引きをバランスよく使い分けるマネジメント力が必要だと痛感しています。
境界線を持ったやさしさが、会社を変える
社員のメンタルヘルスを守り、
離職率を下げ、
社員一人ひとりが自分らしく安心して働ける。
そのために必要なのは、
「やさしいだけじゃない、本当の信頼関係」を育てること。
それこそが、これからの経営に求められる
**“境界線を持ったやさしさ”**なのだと思います。