「嫉妬」
「嫉妬」という感情は扱い方次第で、チームの関係性をよくする力にもなります。今回は、この感情をどう理解し、活かしていくかを一緒に考えてみましょう。
「なんであいつばっかり昇進するんですか?」
これは、ある中小企業の営業部で実際にあった話です。ある日、朝礼で営業の吉田さんがチームリーダーに昇格しました。社長がみんなの前でこう言いました。
「吉田くん、今月はチームへの貢献度がずば抜けていた。リーダーとしての適性を見て、昇進を決めたよ」
その後、ランチルームの片隅で、こんな会話が聞こえてきました。
「また吉田さんかよ。なんであの人ばっかり…」
「いや、あの人って、上司にだけいい顔してる感じしません?」
拍手されたその瞬間、空気が少しピリついた。昇進が発表されただけなのに、なぜか他の社員がモヤモヤしている。
これが「嫉妬」です。
嫉妬は“悪”ではなく、“自然な感情”
人が誰かを羨ましいと思う感情、それが嫉妬です。
心理学では、社会的比較理論(フェスティンガー)という考え方があります。人は他人と自分を比べることで、自分の価値や立ち位置を測ろうとします。
つまり、嫉妬が起こるのは、誰かの成果に対して「自分も頑張ってるのに認められてない」と感じたとき。
社長が悪いわけでも、社員が悪いわけでもありません。
問題は、その感情を放置すると「陰口」や「足の引っ張り合い」になり、チームの空気が悪くなることです。
職場でよくある嫉妬のパターン
【1】上司のお気に入りに見える
「どうせ〇〇さんしか評価されへんやん」
→ 一部の人ばかり褒められているように見えると、不満がたまります。
【2】同期との差にモヤモヤ
「私の方が努力してるのに、あの子ばっかり昇進して…」
→ 比較対象が明確になるほど、嫉妬を感じやすくなります。
【3】目立つ人への反感
「やたら会議で発言するよね。アピールうまいだけじゃない?」
→ 露出の多い社員ほど、裏でやっかまれることがあります。
社長ができる“感情マネジメント”の工夫
・「嫉妬は悪くない」と言葉にして伝える
→ 「人と比べてしんどくなること、誰にでもあるよね」
・結果だけじゃなく“プロセス”も褒める
→ 「◯◯さんのあの工夫、すごく良かったよ」
・役割分担に納得感を持たせる
→ それぞれの仕事がチーム全体にどう貢献しているかを言語化し、「あなたにしかできない仕事がある」と伝える。本人が仕事の意味を感じられるように支援することが大切です(=ジョブ・クラフティング)。
・マネージャーの「本音を汲み取る力」を育てる
→ 表面上の態度や言動だけで判断せず、「あの人の昇進に反発してるように見えるけど、本当は“自分も認められたい”って思ってるのかも」など、嫉妬の裏にある本音を想像して、チーム内にさりげなく伝える役割です。誤解や衝突を防ぐ“感情の橋渡し役”がいることで、チームの信頼関係が守られやすくなります。
嫉妬の裏にある「本音」と「希望」
「なんであの人ばっかり」
その裏には…
「私もちゃんと見てほしい」
「頑張ってるのに気づいてほしい」
嫉妬は、頑張っている人の“サイン”かもしれません。
嫉妬と“男性性・女性性”のエネルギーから見えてくる違い
近年では、性別にとらわれず「男性性・女性性」といったエネルギー的な特徴で人を理解する視点が注目されています。ここでは、嫉妬という感情の出方や対応を、この視点から見てみましょう。
【男性性が強いタイプ】(競争・論理・結果重視)
- 嫉妬=敗北と感じやすい
- 感情を見せず、プライドで押し殺す
- 序列・立場への意識が強く、皮肉や距離で対抗することも
◎イメージキャラ:
- ベジータ(ドラゴンボール):常にライバル意識が強く、誰かが上に立つことを許せない。嫉妬を力に変えようとするが、不器用さがにじみ出るタイプ。
- 半沢直樹(半沢直樹):理不尽な評価や出世レースに敏感で、「自分は認められていない」と感じたときに、内なる怒りと正義感が嫉妬として表出する。
→ プライドが高く、成果や正義を武器に闘うタイプ。
◎響く声かけ例:
「お前の●●があったから、チームとして結果が出た」
「結果だけじゃなく、全体を見て動いてるのも評価してるよ」
【女性性が強いタイプ】(共感・調和・つながり重視)
- 仲間はずれや「見てもらえてない」と感じやすい
- 不満は直接言わず、共感グループ内で共有する傾向
◎イメージキャラ:
- 白鳥麗子(白鳥麗子でございます):お嬢様気質で自信満々に見えるが、好きな人が他の女性と仲良くすると強烈に嫉妬する。女子同士の関係性にも敏感で、プライドの高さと繊細さが同居しているタイプ。
- 野口さん(ちびまる子ちゃん):表では穏やか、でも内面は“実は見てる”人。空気を読む力があり、周囲の感情の動きにとても敏感。
→ 認めてもらいたい、気づいてもらいたい気持ちが根底にある
◎響く声かけ例:
「最近ちゃんと見れてなかったけど、あなたの工夫すごく助かってたよ」
「あの人、あなたの支えに感謝してたって言ってたよ」
このように、同じ“嫉妬”でも、その背景にある価値観や感じ方はさまざまです。
【セルフ診断】あなたはどっち?男性性・女性性チェック!
次の10問のうち、あなたはいくつ「A」と「B」がつきますか?
1.
A:成果が見えるとやる気が出る
B:誰かの役に立っているとやる気が出る
2.
A:競争があると燃える
B:協力し合える方が安心する
3.
A:物事はスピード感をもって進めたい
B:丁寧に確認しながら進めたい
4.
A:ひとりで決めてどんどん進める方が好き
B:誰かと相談しながら決める方が安心
5.
A:目標があると頑張れる
B:人とのつながりがあると頑張れる
6.
A:リーダーとして結果を出すと達成感がある
B:チームの一員として貢献できたときに達成感がある
7.
A:成果を出すには多少の衝突も仕方ない
B:人間関係がギスギスしないことを優先したい
8.
A:評価されるのは人前でも全然うれしい
B:さりげなく気づいてもらえるのが一番うれしい
9.
A:課題があればまずは解決に動きたい
B:まず相手の気持ちを聞くことを大切にしたい
10.
A:仕事は集中して効率よく進めたい
B:安心できる関係の中でゆっくり進めたい
Aが多かったあなたは… 男性性寄りタイプ!
行動力・論理性・結果を重視する傾向があり、物事を前に進めるエネルギーが強め。
一方で、他人の気持ちに鈍感になりすぎないように意識すると、より信頼されやすくなります。
Bが多かったあなたは… 女性性寄りタイプ!
共感力・調和・つながりを大切にし、人を支える力に優れています。
ただし、感情に引っ張られすぎないようにすると、自分の軸も保ちやすくなります。
ちなみに、筆者の私は女性ですが、Aが6個と男性性やや強めでした。仕事モードになると「なんとかしたい」「問題を解決したい」という気持ちが強くなりがちです。相手や状況によってはBが強く出るときもあります。
この診断は「性格が固定されている」というものではありません。
「今の自分の傾向」を知るヒントとして、感情マネジメントにぜひ活かしてみてください。
自分の感情のクセを知ることができると、他人の気持ちの揺れや行動の背景にも、より深く気づけるようになります。
自分を知ることは、チームの空気を読み、より良い人間関係を築く第一歩です。
嫉妬という感情に、優しく名前をつけてみる。そんなところから、チームの空気はきっと変わっていくでしょう。