「社長って、なんでも自分で決められて羨ましいですよね」
「かっこいいです、社長って」
そんなふうに言われて、笑って返したことがある方、きっと多いと思います。
でも、ふとした瞬間にこう思うことはありませんか?
「社員はいるのに、なんだか孤独だな」
そばに人はいる。
毎日顔を合わせ、会話もしている。
でも、どこかで“つながっていない”ような寂しさが残る。
たとえば、
・社内の雑談に入りづらい
・社長が来ると、空気がピリッと引き締まる
・冗談は聞こえるけれど、本音は届いてこない
これ、けっしてあなただけではありません。
心理学でいう「関係の非対称性」
心理学では、こうした状態を「関係の非対称性」と呼びます。
立場に差があると、人は無意識に“本音を控える”ようになる。
つまり「社長である」というだけで、社員とのあいだには
小さな“心理的な緊張”が生まれてしまうんです。
孤独は「構造的」に起きている
社長というポジションには、もともと「ひとりで背負う構造」があります。
経営の最終判断を下すのは自分だけ。
誰にも弱音を吐けず、責任も悩みも基本的に“自己完結”です。
私は採用支援の現場で、多くの社長とお話ししてきました。
その中で強く感じるのは、初代と2代目・3代目では、孤独の質が違うということです。
初代社長の多くは、「やりたくて社長になった」人たちです。
自らの意思で起業し、夢や理念を掲げてスタートしています。だからこそ、苦労の中にも納得感や誇りがある。
一方で、2代目・3代目の社長の中には、
「親から継いだから」
「逃げられなかったから」
「望んだわけではないけれど…」
という理由で就任された方も少なくありません。
選んだわけではないのに、責任は重い。
社員や取引先からは「社長」としての期待を受けるけれど、自分の中では気持ちが追いついていない。
そんなギャップが、初代以上に深い孤独感を生んでいるように思うのです。
なぜ「夜の街」で癒されるのか?
家庭でも本音を出せない。
社内でも「社長」という仮面をかぶっている。
すると、人は自然と“心の穴”を埋めたくなります。
そのとき、選ばれるのが夜の街だったりします。
「社長、すごいですね!」とキラキラした目で言ってもらえる。
お酒の力も借りて、肩の力を抜いて「実はさ…」とこぼせる。
これは、単なる遊びではなく、
心理学でいう“親密性の補完行動”に近いもの。
本音を話せる場所、肯定される場。
それが、疑似的な“つながり”として機能しているんです。
もちろん、それがキャバクラである必要はありません。
必要なのは、「素の自分で話せる場所」なんです。
「孤独に気づける力」は、社長の才能でもある
「孤独=悪いもの」と思われがちですが、
実はこの“孤独を感じる力”こそが、社長にとっての大切なセルフマネジメント力です。
たとえば、こんな感覚。
・最近、誰とも深い話をしていないな
・なんだか心が疲れてる
・そういえば、自分の気持ち…話せてないかも
こういう“小さな心の声”に気づけること。
それができれば、対処できる。
気づかずに走り続けてしまうと、
やる気が出ない理由も、社員にイライラする原因も、ぼやけたままになることが多いんです。
採用支援は「社長の孤独」とも向き合う仕事
そんなとき、私が関わる「採用支援」の場面では、
求人の話から、話題がすっと別の方向に広がることがあります。
社員との関係、これからの事業のこと、家庭のこと…。
ぽろっとこぼれる社長の“素”に触れる瞬間が、ときどきあるのです。
私は、採用とは「会社の未来をつくる、いちばん大事な仕事」だと考えています。
マッチする人材が入れば、現場の空気が変わる。
社長の表情がやわらぎ、
会社にまたひとつ、希望が生まれる。
その流れの中で、社長がふっと笑って、
「なんか久しぶりに、本音を話せたな」なんて言葉がこぼれる。
そんな瞬間に、ああ、この仕事をしていてよかったなって、心から思います。
社長という名の「自由人」
孤独な時間があるからこそ、集中できる。
誰にも気をつかわず、思いきり動ける。
極端な話、明日から会社の方針をガラッと変えることだってできる。
責任は重い。
でも、そのぶんだけ、自由もある。
帰り道、車の中で好きな音楽を流しながら、ようやくひと息つける時間。
「まあ、こんな日も悪くないか」って、ちょっと笑える夜もある。
完全じゃなくてもいい。
揺れたり悩んだりしながらでも、会社を前に進めていく。
それが、社長という仕事なのかもしれません。