初任給30万円の波にどう立ち向かうか?中小企業の人材戦略を考える


最近の採用市場、異変が起きています。
初任給30万円が「夢」ではなく「条件」になりつつある時代、中小企業はどんな戦略で人材確保をすべきなのでしょうか?

目次

初任給30万円が当たり前?人材獲得競争のリアル

最近、大手ゼネコンを中心に「初任給30万円」超えが相次いでいます。
西松建設が30万円に引き上げたところ、エントリー数が前年の1.5倍になったという報道もありました。背景には、慢性的な人手不足と若手離れが進む建設業界の事情がありますが、これは他業種の中小企業にとっても他人事ではありません。

人材獲得競争はすでに“給与水準”でフィルタリングされる時代に入っており、特に新卒や第二新卒層では「初任給のインパクト」が選考の入り口を大きく左右します。

「給与」は選ばれるための“入場券”

求職者が求人を探すとき、まず見るのは「給与」「勤務地」「職種」「トップ画像」「企業のアピールポイント」。

これは、最大級の求人サイト I 社のスマートフォン画面表示を見れば一目瞭然です。
勤務時間や仕事内容の詳細は、クリック(タップ)しない限り表示されません。つまり、給与額がある程度の水準を満たしていなければ、どれだけ魅力的な内容でも“読まれる前に脱落する”というのが現実です。

給与は、今や求職者に「読む価値がある」と思ってもらうための“入場券”なのです。

中小企業にとって「給与水準の最低ライン」はどこか?

もちろん、大企業と同じように初任給30万円を出せる中小企業は多くありません。しかし、最低限「手取りで一人暮らしができる水準」、つまり月給23〜25万円程度は確保しないと、そもそも母集団が形成できません。

さらに見落とせないのが、「同じ額面でも、手取りは昔より少ない」という事実です。

たとえば額面20万円で比較すると──
1990年代は手取りが約17万7,000円ほどあり、地方での一人暮らしなら十分可能でした。しかも当時は、家賃や物価も今より安く、携帯電話もネットもない時代。生活コストそのものが低く抑えられていたのです。

ところが今、同じ20万円の額面でも手取りは約16万2,600円。実に1万4,000円以上も少なくなる計算です。しかも今はスマホ代やサブスク、ガス・電気代の高騰などで、生活にかかる出費も増えています。

つまり、求職者側からすれば「見た目の額面が上がっても、実際の生活は楽になっていない」という感覚。給与に対する“期待と現実のギャップ”が広がっているのです。

給与をまったく上げずに採用競争に挑むのは、戦場に素手で出るようなもの。まずは“相場感覚”と、今どきの若者の「手取り感覚」「生活実感」に対する理解を持つことが重要です。


「給与で勝てない中小企業が“選ばれる側”になるには」

給与以外で中小企業が勝てる4つの戦略
大手に「給料じゃ勝てん!」でも、まだやれることは山ほどある。

1. “伸びしろ採用”で未来の成長を魅せる

即戦力じゃなくていいんです。むしろ、「まだ何者でもない」ことに価値がある。

たとえば、前職はコンビニバイトだった20代が、入社3年で海外出張メンバーに抜擢された!
・・・なんて話が実際にあるのが中小企業。

「この会社で、どんな人になれるのか?」を、ストーリーで語りましょう。
“これからの物語”で惹きつける採用が、今っぽい。


2. 「裁量の大きさ」と「成長スピード」で差別化

大企業だと「会議に出られるようになるまで3年」なんてザラですが、中小企業は「入社初週からプレゼンやることになった」なんてことも普通。

言い換えれば、「背伸びが当たり前」。でも、それが面白い。
実際、「新人なのに商品名を決めた」とか「社長と二人三脚で事業を立ち上げた」とか、ちょっとドラマな体験が待っているのも、規模が小さいからこその特権です。


3. アピールポイントの“もやもや”を言語化せよ

「うちはアットホームな会社です」って、正直もう誰も信用してくれません(笑)。

そうじゃなくて、たとえば
「毎週水曜は“おにぎりの日”。店長が握ってきたおにぎりをみんなで食べる文化があります」
「入社半年で“社長とラーメンに行く会”に強制参加させられます」

そんなリアルな“ちょっと変わった日常”こそ、応募者の心をつかむんです。
抽象を捨てて、ディティールで勝負。


4. 昇給やキャリアパスを“数字と物語”で示す

「頑張れば上がるよ」では、若者の心には響きません。数字+ストーリーで伝えましょう。

たとえば
「入社1年で25万円→2年目には係長待遇で28万円。ちなみにその人、最初はネジの名前も知らなかった」

“リアルな人物”をモデルにして語ることで、「私にもいけるかも」と思ってもらえます。
未来が見える会社は、いつの時代も強い。

心理学から考える「人が職場を選ぶ理由」

  • 自己決定理論
    ざっくり言えば「やらされる仕事より、やりたくなる環境の方が、人は動く」
  • 期待理論
    「ちゃんと報われそう」と思える仕事じゃないと、人は本気になれない

給与はその一部に過ぎず、成長機会、評価される環境、人間関係の質といった要素も、職場選びに大きく影響します。


これからの採用戦略:給与は“入口”、でも本命は“好きになってもらう設計”

中小企業が採用で勝つには、まずは“入場料”(=給与)を払う覚悟が必要。
でもそれだけじゃ足りません。勝負はそこから。

「で、なんでウチに?」を語れないと、求職者の心には刺さりません。

もうこれは、恋愛と一緒です。
「顔(=給与)で興味を持ってもらった後、性格(=社風・価値観)で惚れ直してもらう」みたいな流れが必要なんです。

では、どんな“性格”が好かれるのか?

  • キャリアの描きやすさ
    「3年後にはこのポジション」「先輩は2年で主任に」みたいに、“この会社での未来図”が想像できると人は安心します。将来が白紙の会社に、誰も飛び込みません。
  • 人との関係性の濃さ
    毎朝社長が「最近どう?」って話しかけてくるとか、昼休みにボードゲーム大会があるとか。ちょっとしたことでも、「この会社、面白そう」って思ってもらえる関係性づくりがカギです。
  • 自分の価値が発揮できる環境
    大企業では“歯車のひとつ”でも、中小企業なら“いきなり主役”もありえます。「あなたのアイデアが商品になる」「入社1年目で採用動画のディレクター任される」…そんなチャンスは、人数が少ないからこそ回ってくる。

これらをちゃんと言葉で伝えること
「うち、ええ会社なんやけどなぁ…」で止まってたら、誰にも伝わりません。

“なんとなく良さそう”ではなく、“なんか惹かれる”に変える。
それが、今どきの採用で勝ち残るためのリアル戦略です。


中小企業こそ、採用の本質を問われている

「うちは給与では勝てない」――そのとおりかもしれません。
でも、「誰と働くか」「どう成長するか」に惹かれて入社する若者は、今でもちゃんといます。

「この会社、なんか気になる」
「社長、ちょっと変わってて面白そう」
「自分の居場所、ここにあるかも」

そんな“直感のファンづくり”こそが、これからの採用のキモです。

結局、どれだけお金を積んでも「一緒に働きたい」と思われなければ人は来ません。
だからこそ、中小企業の武器は、“人間くささ”と“本音”です。

経営者が、自分の言葉で「うちで働くって、こういうことやねん」と語れるか。
その覚悟が、求人原稿よりも強い“惹きつけ力”になる時代です。

まずは給与で目を止めてもらい、あとは会社の“クセ”で好きになってもらう
それが今の採用に必要な「いい意味での沼戦略」です。

――沼れ、経営者。採用は、そこから始まる。

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