面と向かって辞められない時代に。 退職代行が“当たり前”になりつつある理由

目次

🧭 なぜ今、「辞め方」がこんなにもドライなのか?

かつては当たり前だった「立つ鳥跡を濁さず」。 退職するなら、しっかり引き継いで、最後にお礼を言って、菓子折りを持って挨拶をして──そんな姿が“常識”でした。

でも最近は、そうではない辞め方が増えています。 特に「退職代行サービス」の利用が増えているのは象徴的です。

「辞めたいけど、直接言えない」「上司と話したくない」 そんな理由で、最終出社もせず、LINE一本で会社を離れる若者が増えている現実。

その背景には、単なる“マナーの低下”ではなく、心理的な要因があります。


📊 データが示す現実:退職代行はGW明けに急増

退職代行サービス「モームリ」のデータによると:

  • 2025年GW期間中(4月26日~5月7日)の退職代行依頼件数は824件
  • そのうち新卒社員からの依頼が107件(13%)
  • 新卒の退職が最も多いのは5月、次いで4月と6月

「GWをはさんで気持ちが整理された」「このまま続けていいのか考えた」という声も多く、長期休暇が“キャリアを見つめ直す”タイミングになっていることが分かります。


🧠 心理学で読み解く「辞め方の変化」

1. 認知的不協和
自分の中のモヤモヤを“急に切る”ことで解消したい

新卒や若手社員は「この会社で頑張る」と自分に言い聞かせて入社します。 でも、現実とのギャップに苦しむと、自分の中で「こんなはずじゃなかった」という不協和が生まれます。

これは、心理学でいう「認知的不協和理論」(レオン・フェスティンガー)にあたります。人は、自分の信念・価値観と実際の行動や現実にズレがあると、強いストレスを感じ、それを埋めようと行動します。

退職を“静かに決行”するのは、これ以上自分の中で「ズレ」を大きくしたくないから。つまり、“悩み抜く”より、“急に辞める”ことで心を守ろうとしているのです。

2. 回避的アタッチメント
人との関係性を深めず、衝突を避ける傾向

最近の若者に見られるのが、「人と深く関わるのが怖い」「嫌われるのが怖い」といった傾向。 これは「愛着理論」(ボウルビィ/メアリー・エインスワース)における「回避型アタッチメント」に該当します。

回避型の人は、衝突や否定に対する耐性が低く、問題が起きると「向き合う」より「距離を取る」ことで安全を確保しようとします。

だから、「辞めます」と直接言うのではなく、代行サービスを挟んで“感情のやりとり”を避ける。これは逃げではなく、彼らにとっての「精一杯の自己防衛」なのかもしれません。

3. 心理的安全性の欠如
「辞めたい」と言える空気がなかった

「辞めることを伝えたら怒られるかもしれない」「どうせ引き止められる」 そうした空気感がある職場では、人は本音を口にできません。

Amy Edmondsonの「心理的安全性」の概念では、人が安心して意見・報告・相談できる状態こそが、組織の健全性を保つ前提だとされています。

もし退職の意思すら伝えられないとしたら、その職場はすでに“感情のシャッター”が下りている可能性があります。退職代行は、単なる逃げ道ではなく、「ここではもう対話が成立しない」という“最終手段”なのです。


「けじめ文化」の揺らぎがもたらすもの

  • 「終わりよければすべてよし」
  • 「立つ鳥跡を濁さず」
  • 「義理を通す」

かつての日本社会は、「辞め方」にも美意識がありました。 別れ際まで礼を尽くすことが“人柄”とされていた時代。

でも今は、“関係をきれいに終わらせる”よりも、“嫌なことから早く抜ける”ことが優先される風潮があります。

それを単純に「最近の若者はけしからん」と切って捨てるのではなく、 今の時代に合った「退職の対話の仕方」や「出口設計」を、企業の側も持つべきタイミングなのかもしれません。


✅ 経営者ができる“やさしい出口戦略”のすすめ

  1. 辞めたくなる前に、相談できる空気をつくる
  2. 「辞める=悪」と決めつけずに耳を傾ける
  3. 感謝と見送りが自然に交わせる文化を育てる

📝 退職代行の裏にある“声なき声”を聴く

実を言えば、私自身も、かつてきちんと挨拶をして辞められなかった経験があります。もちろん退職代行を使ったわけではなく、自分で連絡し、必要な後処理も済ませましたが、それでも「しっかり話して辞める」という理想には届かなかった。

だから、ほんの少しだけ、「退職代行を使う人の気持ち」も、わからなくはないのです。

退職の形が変わってきている今、私たちが向き合うべきは「サービスとしての退職代行」ではなく、 その背景にある“対話が成立しなかった職場”という現実かもしれません。

昔ながらの“きれいな終わり方”が減っていく中で、 それでも「終わり方に、その人の人柄が出る」と信じたい自分もいます。

そして同時に、企業側にも「気づき」や「声がけ」の余地があったのでは? そんな問い直しが、これからの組織づくりには必要だと思うのです。

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