「叱ったら辞めた」時代に、上司はどう向き合う?
「ちょっと注意しただけなのに、次の日から来なくなった」 「“自分、向いてないんで…”と一方的に退職届を出された」
そんな経験、ありませんか? 最近の若手社員に多い“叱られ下手”現象。昔のように「叱って伸ばす」はもう通用しない
そう感じている経営者や上司は多いはずです。
では、なぜこんなにも「叱る」が難しくなったのでしょうか? その背景には、自己肯定感の構造と、心理学的な“防衛機制”が関係しています。
🔍 若手はなぜ「叱られ耐性」が低いのか?
「最近の若い子は打たれ弱い」と言われがちですが、そもそも育ってきた環境がまったく違います。
- 子ども時代に“競争”が避けられた(順位・比較を避ける教育)
- SNSで「いいね」の数が評価の基準になった
- 家庭や学校で叱られる経験が少なかった
結果として、「外からの評価=自己肯定感」のように、“他人の目”を通じてしか自分を見られない人が増えている傾向があります。
つまり、自分の中の「土台」がまだ育ちきっていない状態。だからこそ、“注意”がダイレクトに“否定”として突き刺さってしまうのです。
🛡 防衛機制とは?叱られると「脳が勝手に守りに入る」
心理学者フロイトが提唱した「防衛機制」とは、ショックな出来事や不快な指摘から“自我”を守るために、無意識のうちに働く心の仕組みです。とくに注意や叱責など、本人にとって「痛いフィードバック」を受けたとき、この防衛機制が発動しやすくなります。
たとえば
- 回避
「もう辞めた方がいいかも…」
→注意の内容より“その場から離れたい”気持ちが先に立ち、話を深めずに逃げたくなる - 投影
「それ、私のせいってことですか?」
→本当は「自分の中にある不安」や「できなかった罪悪感」があるのに、それを自覚したくないため、相手が自分を責めているように“見えて”しまう。たとえば「上司が怒ってる気がする」と感じるとき、それは自分の心の奥の“怒られたかも”という気持ちを投影している可能性があります。 - 逆転
「上司の言い方が無理。あの人がパワハラ気味」
→自分の失敗への罪悪感や無力感を、相手への攻撃にすり替える
これらは、意図的にやっているのではなく「自分を守るために無意識に起こる反応」です。
そのため、上司が「そんなつもりじゃなかった」といくら言っても、受け手の脳は“人格を否定された”という印象に塗り替えてしまうことがあるのです。
つまり、防衛機制が発動してしまうと、上司が伝えたかった“行動への指摘”が、“人格そのものの否定”として受け取られてしまうことがあります。
だからこそ、叱るときはまず相手の心理状態を整え、「受け取る準備ができた状態」を作っておくことが大切なのです。
🧱 自我が脆いと、「叱られた=否定された」になる
たとえば
- 「ここの提出、1日早められる?」 → 「遅れてすみません、向いてないと思います…」
- 「この資料、もう少し見やすくなるといいな」 → 「え、ダメでしたか…(シュン)」
指摘したのは“行動”なのに、受け取る側は“自分の存在”を否定されたように感じてしまう。 これは、自我の安定性が低い=脆弱性がある状態の特徴です。
💬 叱る前に“安心感”をセットするのが新しい常識
「じゃあもう叱れないの?」ではありません。 叱る=悪ではなく、“伝え方”を少し変えるだけで伝わり方はガラリと変わります。
🧩 ポイントはこの3つ:
- 最初に存在承認を入れる
- 「○○さん、最近すごく助かってるよ」
- “行動”と“人格”を切り離す
- 「ここだけ直せたらもっと良くなるよ」
- “前向きな期待”で締めくくる
- 「ここ、もっと良くなると思うから一緒に頑張ろう」や「あなたなら改善できると思ってる」など、重くなりすぎず、可能性を信じているニュアンスで伝えるのがポイントです。
これは心理学でいう【自己効力感】を高める伝え方。 責めずに育てる、今の時代に必要なコミュニケーションです。
📝 「叱れない職場」ではなく「伝わる職場」へ
叱るべきときに、何も言えないまま過ごすのは危険です。 でも、“昔の叱り方”では、心がついてこない人も増えている──それが今の現実。
だからこそ、伝え方の工夫が必要なんです。
- 「注意したのに、響いてない」
- 「頑張って伝えたのに、逆ギレされた」
そんなときは、“言い方”の問題だけでなく、相手の受け取り方の構造にも目を向けてみましょう。
心理学を少し取り入れるだけで、人はちゃんと変わります。 信頼される上司になるための、ヒントになれば幸いです。