「辞めます」さえ直接言えない若者たちと、どう向き合うか
数年前までは考えられなかったビジネスが、今では「当たり前」のように存在しています。
そう、退職代行です。
「自分で辞めますと言えないのか?」
「社会人としての責任感は?」
「感謝の気持ちはどこへ行った?」
多くの社長が、最初にこのサービスを知ったときに覚える違和感。
その感覚はとても自然です。
でも、その違和感の奥にある“時代の変化”と“若者の本音”を見つめ直すことが、これからの組織づくりには欠かせないのではないでしょうか。
「退職代行で辞めさせてください」…20代女性の事例
ある企業で働いていた20代の女性社員。真面目で責任感があり、最初の半年間は定時を過ぎても率先して残業し、先輩からも信頼されていたそうです。
ところがある日、社長の元に退職代行業者からの電話が入ります。
「〇〇さんの代理でご連絡しております。本人は精神的ストレスから、直接ご連絡が難しい状態です。本日付で退職の意思を表明いたします。」
突然の出来事に社長はショックを受けました。
「昨日まで普通に出勤していたじゃないか…」
「引継ぎも終わっていない…」
「感謝の言葉もなしか…」
しかし後日、その女性の同僚からこんな話が聞こえてきます。
「ずっと悩んでたんですよ…上司の叱責がキツくて、本人も“自分が悪いんだ”って思い込んでて。直接辞めるなんて、とても言えないって…」
表面では見えなかった“限界”が、静かに進行していたのです。
退職代行を使う若者は、本当に「礼儀知らず」なのか?
もちろん中には、社会性や配慮を欠いた例もあるでしょう。
しかし、退職代行を利用する人の多くは、「逃げたい」以上に、「どうしても言えなかった」「どう伝えればいいか分からなかった」というケースです。
ある大手退職代行サービスの調査によれば、
退職代行を利用した理由の上位は以下の通りです(※2024年調査データより)
- 上司に退職を伝えられる雰囲気ではなかった(45%)
- 引き止められることが確実だった(32%)
- 精神的に限界で、連絡をとる余力がなかった(28%)
つまり、“甘えている”というより、“もう余力がなかった”という実情があるのです。
海外との比較:アメリカやドイツではどうか?
アメリカでは、「辞めます」の伝え方は非常にシンプルです。
2週間前にメールを一本送る。それで終わりです。
ドイツやイギリスでも、労働契約に沿って手続きを淡々と進める文化があり、退職=個人の自由という価値観が浸透しています。
日本のように「引継ぎを丁寧にして、感謝を伝え、菓子折り持って回る」といった“情緒的な退職文化”は、むしろ少数派です。
では、欧米が正しくて日本が古いのか?
そうではなく、文化と価値観の違いなのです。
社長として、どう向き合うか?
退職代行が必要な職場にならないために、できることはたくさんあります。
そのカギは「信頼」と「心理的安全性」です。
話しやすい空気をつくっているか
「何かあったら言ってね」と言っていても、“本当に言ってもいい空気”がなければ意味がありません。
ミスや違和感を伝えられたとき、反応が否定的になっていないか
「そんなの気にしすぎだよ」「それは甘えじゃない?」
この一言で、相談の芽は潰れてしまいます。
自分の「当たり前」が、時代の価値観とズレていないか
「昔はこうだった」は、今の若者には通じません。
代わりに、「私はこういう考え方で大切にしてるよ」と伝えると、若者の心にも届きやすくなります。
本音を言える職場に、若者は残ります
若者は「やる気がない」のではなく、「信頼できる人の元で、自分の意見を大切にされたとき」に最も力を発揮します。
退職代行を使われる会社になるかどうかは、制度よりも“日々の関係性”にかかっているのかもしれません。
そして、人としての礼儀や感謝の心を伝えるには、「辞める時」ではなく、「働いている間」の関係性がすべてです。
「退職代行なんて使われるようじゃ終わりだ」
…ではなく、
「そうならないために、社長として何ができるか?」
そう問い直す姿勢こそが、次世代から選ばれる会社をつくっていくのだと思います。