「怒れない上司」と「打たれ弱い部下」そんな時代に上司が知るべき心理学的アプローチ

近年、パワハラやセクハラといったハラスメント問題がクローズアップされる中で、上司が部下を指導しづらくなっているという声をよく耳にします。さらに、若手社員のメンタルが「打たれ弱くなっている」と感じる上司も多いのではないでしょうか?

しかし、これは単に「今の若者は弱い」や「上司が萎縮している」といった単純な問題ではありません。実は、上司と部下の間にある“心理的な境界線”の変化が影響しているのです。

本記事では、現代の職場環境を踏まえながら、「怒れない上司」と「打たれ弱い部下」の関係をより良くするための心理学的アプローチを紹介します。

目次

1. 現代の職場で起きている「境界の変化」

1-1. 上司と部下の「権威の境界」が曖昧になっている

以前は、上司が権威を持ち、部下はそれに従うという関係性が一般的でした。しかし、近年では「上司と部下がフラットな関係であるべき」という考えが広がり、指導=押しつけと捉えられる傾向が強まっています。

その結果…

  • 上司は「強く言えない」と感じ、必要な指導を避けるようになる。
  • 部下は「怒られ慣れていない」ため、少しの指導でも過度にストレスを感じる。
  • 若手の中には、些細な注意でも精神的に大きな負担を感じ、結果的に退職を決断するケースが増えている。
  • さらに、近年では退職代行サービスの利用者も増加傾向にあり、企業側も人材の定着に苦慮している。
  • 現在の労働市場では採用が困難であり、企業にとって優秀な人材を育成・維持することがますます重要な課題となっている。

このような状況に直面している上司は、適切な指導方法を模索しながら、部下の成長を促すための新しいアプローチを取る必要がある。また、上司自身が「部下に嫌われたくない」「厳しくすると関係が悪化するのでは」と感じ、必要な指導をためらうケースも増えている。指導を避けることが、結果的に部下の成長機会を奪い、さらには組織全体の生産性の低下にもつながりかねない。

1-2. 心理的安全性が「誤解」されている

心理的安全性(Psychological Safety)とは、「職場で意見を言っても否定されない」「失敗を報告しても責められない」環境を意味します。この概念は、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン(Amy Edmondson)教授によって提唱されました。

彼女の研究によると、心理的安全性が高いチームでは、メンバーが率直に意見を交わし、学習し合うことで、業務の質や成果が向上することが示されています。しかし、一部の現場では「心理的安全性=優しくすること」と誤解され、結果的に指導が減ってしまうケースもあります。

本来の心理的安全性とは?

  • 心理的安全性とは、単に「優しくすること」や「怒らないこと」ではなく、部下が失敗やミスを恐れず、安心して学び成長できる環境を作ることを指します。
  • 具体的には、部下が意見を述べたり、リスクを取ることに対して否定的な反応をされないことが大切です。
  • 上司が部下を過度に気遣い、指導を避けるのではなく、適切なフィードバックを行いながらも、部下が心理的に追い詰められないように配慮することが求められます。
  • そのためには、指導の際に批判ではなく、成長の機会として伝える工夫が必要になります。

2. 「怒れない上司」と「打たれ弱い部下」を変える心理学的アプローチ

2-1. 指導の前に「心理的安全性」を確保する

指導を受け入れてもらうためには、部下が「この上司は自分を成長させようとしてくれている」と感じる環境を作ることが大切です。

実践方法:
✅ 普段から「できていること」も伝える(指導だけでなく、良い点も認める)
✅ 「指導の目的」を明確に伝える(「これは君のためになる」「このスキルは将来役立つ」など)

2-2. 「Iメッセージ」で伝える

指導の際、「なんでできないんだ?」といったYOUメッセージを使うと、部下は責められていると感じやすくなります。

NG例(YOUメッセージ)

  • 「何でこんなミスするんだ?」
  • 「もっとちゃんとやってくれ」

OK例(Iメッセージ)

  • 「私はここを改善するともっと良くなると思うよ」
  • 「この点を直せば、もっと成長できるよ」

「Iメッセージ」を使うことで、指導が「攻撃」ではなく「アドバイス」として受け取られやすくなります。

2-3. 「叱る」ではなく「質問する」アプローチ

「なぜミスしたのか?」と責めるのではなく、質問形式で考えさせる指導が効果的です。

指導の例:

  • 「この仕事をもっと効率よくするにはどうすればいいと思う?」
  • 「もし自分が上司だったら、このミスをどう防ぐ?」

質問されると、部下自身が考え、答えを導き出しやすくなります。自ら気づいたことは、より深く学習できるため、成長スピードも上がります。

2-4. 小さな成功体験を積ませる

若手の「打たれ弱さ」の原因の一つは、「成功体験の不足」です。小さな成功体験を積ませることで、自信をつけさせましょう。

実践例:
✅ 小さなタスクを任せ、達成したらしっかり認める
✅ 「前より成長している」と言葉にして伝える

3. これからの上司・部下の関係性を考える

職場環境は時代とともに変化し、上司と部下の関係性も新しい形を求められています。厳しさだけではなく、成長の機会を提供する指導が求められる時代です。さらに、採用が難しくなっている現代においては、単に新しい人材を獲得するだけでなく、既存の社員を定着させ、活躍できる環境を整えることがより一層重要になっています。

上司は「伝え方」を工夫し、部下は「受け取り方」を前向きに捉えることで、より良い職場環境を築くことができます。お互いが歩み寄ることで、ハラスメントを恐れず、成長を促すコミュニケーションが実現できるのではないでしょうか。

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